日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

教育講演

教育講演13

2020年11月27日(金) 08:00 〜 09:00 第2会場 (2F B-1)

座長:谷 俊一(くぼかわ病院 整形外科)

[EL13] 運動誘発電位検査を用いた脊椎脊髄疾患の評価

中西一義 (日本大学 医学部 整形外科学系 整形外科学分野)

運頚椎部、胸椎部での脊髄症を診断し、その脊髄障害の程度を正確に把握することは、適切な治療を行う上で重要である。頚髄症・胸髄症は症状や理学所見、MRI、脊髄造影検査などの画像検査により診断されるが、症状や所見が典型的でない場合や、他高位の脊椎障害あるいは末梢神経障害や関節障害が合併する場合など、診断が困難な症例や脊髄症が見逃されるケースは決して少なくない。頚髄症・胸髄症の診断の遅れは、症状の進行による麻痺をまねく恐れがあるため、これを回避できる脊髄機能評価法が望まれる。1985年、Barker AT、Jalinous R、Freeston ILによって、経頭蓋磁気刺激による非侵襲的大脳皮質運動野刺激法が開発されたのをきっかけに、中枢神経系運動路の機能評価は急速な発展を遂げ、中枢運動伝導時間(central motor conduction time: CMCT)の計測法が確立されるに至った。経頭蓋磁気刺激筋誘発電位潜時と末梢潜時との差より算出されるCMCTは、整形外科領域においては主に圧迫性頚髄症の脊髄機能評価に応用され、頚髄症の重症度を判定できる大変優れた非侵襲的検査法とされている。しかし一方で、頚髄症においてCMCTが遅延する機序については長い間知られないままであった。恐らく皮質脊髄路での伝導遅延がその機序と考えられていたと推測されるが、21世紀に入って初めて頚髄症の皮質脊髄路に伝導遅延はほとんどないことが証明され、代わりに1995年、Tani T らにより報告された頚髄症における脊髄伝導ブロックの存在に焦点が向けられるようになった(2001年、Kaneko K他)。すなわち、脊髄誘発電位が圧迫部での伝導ブロックにより減衰し、脊髄運動ニューロンが興奮する際の時間的加算が遅延するという説である。本講演ではこれらのCMCTが辿ってきた歴史を、我々が行ってきたCMCTの遅延する機序解明や、胸髄症への応用に関する研究結果を交えて紹介する。そしてそのスクリーニングとしての有用性や限界について考察し、さらに将来の電気生理学的脊髄機能診断の展望について述べたい。