日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

教育講演

教育講演16

2020年11月28日(土) 09:45 〜 10:45 第2会場 (2F B-1)

座長:齋藤 貴徳(関西医科大学整形外科学講座)

[EL16] CSA、NA、胸郭出口症候群

園生雅弘 (帝京大学 医学部 神経内科)

頸椎症性筋萎縮症(CSA)と神経痛性筋萎縮症(NA)は、多くの例で痛みに引き続いて筋力低下を急性に呈するという点で共通しており、鑑別が問題となる。一方NAと胸郭出口症候群(TOS)とは、いずれも腕神経叢障害と考えられて来たという点で共通する。これらはいずれも整形外科と脳神経内科の境界に位置する疾患群であり、また臨床症候の評価と並んで電気診断が大きな役割を果たすという点でも共通している。頻度的にはCSAが圧倒的に多く、特に日本ではcommon diseaseと言えるレベルで、NAとTOS、即ち、真の神経性TOS(true neurogenic TOS [TN-TOS])は稀な疾患だが、これも特にTOSの疾患概念の捉え方によって頻度が大きく変わってきてしまう。CSA: NAの頻度は日本では9:1程度だが、CSAをNAとする誤診がかなり多くなされているのではとも考えている。これらの疾患それぞれは、予後も治療法も異なっており、正確な診断が必須である。電気診断に責任を持つ人が多く集まる本学会員には是非とも正確な知識と技能を身につけて、これらの疾患の診療を主導していただきたいと考えており、この教育講演はその目的で企画されたものと推測している。CSAは頸椎症が原因と考えられ、感覚障害や長経路徴候をほとんど伴わず、上肢筋力低下・筋萎縮を主徴とする症例群の総称である。Keeganが最初に報告したradiculopathyによるものと、祖父江らが報告しCSAの名称を提唱したmyelopathyを想定したものとに分けられるが、両者の鑑別が難しい例、さらには画像変化の乏しい例も多い。また本邦では多数の報告があるが、欧米での報告は驚く程少なく、ほとんど認識されていないことが特筆される。CSAは、C5ないしC5/6髄節を主に侵す近位型と、C8髄節中心に障害する遠位型に分けられ、両者の頻度は同程度である。診断の最大の手がかりは、CSAは正確に髄節性の筋力低下分布をとることである。針筋電図は徒手筋力テスト(MMT)を補完し、特に傍脊柱筋の脱神経が診断に役立つ。近位型CSAでは三角筋複合筋活動電位振幅の左右比較が予後判定に用いられる。NAは別シンポジウムで詳しく触れるが、腕神経叢障害ではなく多発性単ニューロパチーであることが近年ほぼ確定した。日本では後骨間・前骨間神経を侵す遠位型が多い。筋力低下分布から診断でき、超音波での砂時計様くびれの証明が確定診断に役立つ。針筋電図で新生運動単位電位(nascent MUP)が証明されれば、回復が期待できる。TOSでは、TN-TOSはT1>C8の下神経幹障害を来す運動優位の慢性疾患であり、内側前腕皮神経の感覚神経活動電位消失を含む、神経伝導検査の疾患特異的な所見で確定診断できる。議論のあるTOS(disputed TOS)の本態は不明である。演者にTOSの診断で紹介されてくる症例、特に交通事故後の症例では、ヒステリー性麻痺(機能性神経障害、転換性障害)が圧倒的に多い。