日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

教育講演

教育講演18

2020年11月28日(土) 13:30 〜 14:30 第2会場 (2F B-1)

座長:長谷 公隆(関西医科大学 リハビリテーション医学講座)

[EL18] Bell麻痺の病態と治療

栢森良二 (帝京平成大学 健康メディカル学部 理学療法学科)

Bell麻痺の病態は,単純ヘルペスタイプ1型の再活性化による,膝神経節における顔面神経炎である。従来,予後良好といわれていたが,実際は多少とも後遺症が出現することが多い。予防をしなければ障害は増悪し,半永久的に残存する。炎症は側頭骨内の神経管で浮腫が生じるために,顔面神経幹は絞扼障害に陥り,この軽重によって,顔面神経麻痺の重症度は決定される。可及的速やかに抗ウイルス薬とステロイドを投与する。この機会を逃がし,4,000本の神経線維が少しでもワーラー変性に陥っていると,発症4か月後に迷入再生による病的共同運動や顔面拘縮が生じる。[病態] 神経線維の炎症絞扼障害によって,脱髄,遡行変性,ワーラー変性の3つの変性タイプが生じる。脱髄は最軽症で,臨床的に3週間で完治する。遡行変性は神経幹最外層を走行する栄養血管閉塞によって生じる栄養不全である。表情筋の最遠位部から中枢側に向かって軸索変性が生じる。神経線維は1mm/日のスピードで再生する。病変部まで最長で3か月ほどで再生して,迷入再生は起こらず,臨床的に完治する。一方,ワーラー変性は,病変部から末梢側へ進行する軸索変性である。神経内膜の断裂があるために神経断裂であり,迷入再生が起こる。このために臨床的に1か月の遅延時間があり表情筋に迷入再生線維が到達が始まる。神経再生の最も有効な手段は支配筋の随意運動による促通であるが,迷入再生の予防には筋のストレッチングによる再生遅延である。[電気生理学]発症10~14日目の軸索変性の重症度を測定するENoG(electroneurogram)を用いる。病変より遠位部での神経変性の程度を患側:健側比を求めるものである。ENoG≧90%で脱髄と判断し,ENoG≧40%で遡行変性あるいは軸索断裂と判定する。ENoG<40%はワーラー変性線維がある症例で,ENoGが小さいほど重症である。迷入再生の出現する可能性は[40-ENoG]で表現される。最大40%が迷入再生が生じることになる。4か月以降の表面筋電図と瞬目-顔面筋反射で,迷入再生と過誤支配の重症度と範囲を検索する。これらの所見は,原発性顔面痙攣と同じことから,顔面神経麻痺後遺症は二次性あるいは症候性顔面痙攣と診断名がつけられる。[臨床経過]3か月で完治していない顔面神経麻痺は,4か月以降に迷入再生-過誤支配による病的共同運動が出現する。表情筋の分離運動ができなくなり,患側表情筋は一塊の表情運動になる。つまり開口部を挟んで,動筋と拮抗筋関係が生じ,しかも同時収縮をすることになる。3か月以降も随意運動を継続すると,迷入再生線維も促通され,病的共同運は6か月ほどで優位になってしまい,過運動症のために表情筋短縮による顔面拘縮が生じる。瞬き,食事をする,喋るなどの運動は不可避のために,神経再生は8~10か月でプラトーになる。 [治療]筋短縮による顔面拘縮と,動筋と拮抗筋の同時収縮を軽減するためには,ボツリヌス治療が最も有効である。