[EL3] 神経伝導ブロックの新しい考え方
有髄神経における跳躍伝導はランビエ絞輪におけるNaチャネルの局在と髄鞘による絶縁によって成立している。一つの絞輪部において脱分極が起こると、一斉に電位依存性Naチャネルが開口して内向きのNa電流が活動電位を発生し、活動電位は次の絞輪部に向かい、そこでNaチャネルを開口させることにより新たな活動電位を発生する。神経伝導の安全因子は以下の式で表される:安全因子=「駆動電流/Naチャネルの開口閾値」隣の絞輪部で生じた活動電位による駆動電流が次の絞輪におけるNaチャネルの閾値より大きければ(安全因子>1.0)であれば新たに活動電位が発生して跳躍伝導が起こる。すなわち伝導ブロックは式の分子である「駆動電流」の低下と分母である「Naチャネル開口閾値」の上昇という二つの因子により起こる。脱髄性ニューロパチーでは髄鞘の絶縁機能の低下により駆動電流が散逸することにより隣のランビエ絞輪において安全因子が1.0を下回ると伝導ブロックが生じる。一方、Naチャネルの開口閾値の上昇はランビエ絞輪部軸索膜におけるNaチャネル密度の低下(軸索型ギラン・バレー症候群)、虚血によるNaチャネルの不活化(血管炎性ニューロパチー)などにより生じる。臨床症状(筋力低下、感覚低下)を惹起する。また、神経伝導検査により脱髄病変の分布を推定することが可能である。遠位部刺激の複合筋活動電位においてすでに著明な遠位潜時延長、時間的分散、振幅低下がみられる場合には脱髄は神経終末において生じている。一方、神経幹の遠位部刺激と比較して近位部刺激で複合筋活動電位の低下がみられる場合には2か所の刺激部位の間の神経幹で伝導ブロックが生じている。さらに二重刺激(不応期)や随意収縮(電気原性Na-Kポンプ活性化による過分極)などの負荷により人為的に安産因子を低下させて伝導ブロックが起これば(活動依存性伝導ブロック)、逆に安全因子を推定することができる。本講演では脱髄病変の分布と安全因子の推定を中心に臨床神経生理学における伝導ブロック所見の意義について概説する。