50th Memorial Annual Meeting of Japanese Society of Clinical Neurophysiology (JSCN)

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教育講演

教育講演6

Thu. Nov 26, 2020 3:20 PM - 4:20 PM 第5会場 (1F C-2)

座長:幸原 伸夫(神戸市立医療センター中央市民病院)

[EL6] MMTとmuscle ID

園生雅弘 (帝京大学 医学部 神経内科)

神経症候学の中で、徒手筋力テスト(MMT)は神経疾患診断における有用性が極めて高い。同時に腱反射と並んで、神経症候の中で最も習熟を要する分野でもある。筋力低下分布の詳細な検討が種々の神経疾患の診断に役立つ。錐体路性麻痺、ヒステリー性麻痺、多発筋炎/皮膚筋炎、封入体筋炎、GNEミオパチー(縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー)、種々の筋ジストロフィーなどがそれぞれ特徴的な筋力低下分布のパターンを呈する。筋萎縮性側索硬化症(ALS)の筋力低下の特徴(選択性)は特に注目されており、split-handを始め種々のものが報告されているが、演者らはsplit-finger、arm/forearm sparingなどの新しい選択性を見出している。神経原性疾患では、神経根・神経叢・末梢神経・その分枝の局在診断にMMTが寄与する。特に、ALSか、頸椎症性筋萎縮症か、神経痛性筋萎縮症かの鑑別においては、筋力低下の分布が髄節性かどうかがキーとなる。しかしこれらが可能となるためには神経解剖・筋節の知識が必須である。筋節は教科書によって様々に異なったものが記載されてきたが、演者らは主にMRIで証明された神経根症の検討に基づいた筋節表を提示している。MMTには様々な原理やpitfallがあり、これらに熟知して初めて、正しい評価が可能となる。重要なポイントを列挙すると、1)必ず1関節を調べる。このためより近位の身体部分の固定(fixation)が必須。2)検査肢位(Test position)を検者がbreakできるかというBreak testとして行う。3)相手の力に合わせて徐々に力を強める。jerkyな力を加えてはいけない。4)健常人ではbreakされない肢位を体得する。これを十分に行えば、健常者のvariationは少ないと演者は考えている。5)MMTには様々な手技があるので、どの方法で行うかを明確にする。6)Gradingについても若干のvariationがある。特に重力の影響は無視できる筋、評価が困難な筋が多く、演者は「3抜きgrading」を広く用いている。針筋電図施行のための筋の同定は、実は針筋電図の最初の基礎知識として身につけるべきである。なぜならこれができずに間違った筋を調べてしまったら、すべての筋電図診断が間違いになる。しかもこれはしばしば生ずる誤診の原因である。特に前腕屈筋、前腕伸筋では多数の筋が隣接して存在するのでそれらの刺し分けに習熟する必要がある。針筋電図検査施行時には各々の筋に力を入れてもらう必要があり、この手技は前記のMMTの手技と一部共通する。また、針筋電図の役割のひとつに、特に障害分布の検討においてMMTを補完するということがあり、このためには神経解剖や筋節の知識が必須となる。さらに加えるなら、MMTが0か1かの判定には筋腹を同定触知することが必要である。このようにMMTと針筋電図と筋の同定には深い関連がある。これを踏まえた「MMT・針筋電図ガイドブック」という本も書いたので参考としていただければ幸いである。