日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

教育講演

教育講演7

2020年11月26日(木) 16:30 〜 17:30 第2会場 (2F B-1)

座長:石井 良平(大阪府立大学 総合リハビリテーション学研究科 作業療法学専攻)

[EL7] 精神科領域における電気生理学的知見

吉村匡史, 池田俊一郎, 北浦祐一, 西田圭一郎, 木下利彦 (関西医科大学 医学部 精神神経科学教室)

精神疾患が地域医療の基本方針となる医療計画に盛り込む疾病として加えられてから、7年余りが経過した。しかし今なお、通常の臨床で精神疾患の確定診断に用いられ得るバイオマーカーはほとんど確立されていない。また、治療法に関しても、目覚ましく発展しているとは言い難いと考えられる。
本講演では、脳機能を評価する神経生理学的検査として代表的な手法である脳波に関して、精神疾患との関連を中心に説明する。上述のように、精神疾患の決定的なバイオマーカーとしての脳波所見は確立されていない。しかし、脳波を定量化して種々の指標として表す手法は現在も進歩を続けている。例えばこれらの手法によって、頭皮上脳波から、脳内の電流密度分布や部位間の電気的活動の同期性、そしてミリ秒単位での脳内電気的活動の経時的変化を評価することが可能であり、そのような手法が統合失調症、うつ病などの精神疾患に応用されている。また、精神疾患の治療法として欠かせない薬物療法についても、薬物が脳に及ぼす影響が、脳波の定量化によって評価されている。この領域はすでに「薬物脳波学」として確立されており、向精神薬の創薬や作用機序の解明に大きく貢献した歴史がある(薬物脳波学に関しては、大会2日目午後のAdvanced Lecture「薬物と脳波」にて、当教室の池田俊一郎が解説する)。ただ、薬物療法の進歩にもかかわらず効果を得ることができない症例、あるいは副作用や妊娠、身体合併症などにより十分量の薬剤を十分な期間投与できない症例も一定の割合で存在する。そこで近年、薬物療法以外の治療選択肢としてニューロモデュレーションが注目されているが、これらは生理学的な治療法であり、脳波との関連を検討した研究も多い。言うまでもなく、脳波は侵襲が少なく低コストで、時間解像能が高いという強みを持つことから、精神疾患においてもまだまだ発展、応用の可能性があると考えられる。