[LS10] ボツリヌス治療~痙縮への作用機序と問題点~
ボツリヌス療法は、本邦では1996年に初めて眼瞼痙攣に保険適応になって以来、さまざまな筋緊張異常症の治療に用いられるようになっている。その中で2010年に上下肢痙縮の治療に用いられるようなり、一挙にその使用頻度が拡がり、全国の施設で認可された施注医により多くの患者への治療が行われている。本セミナーでは痙縮への作用機序と、実臨床での問題点についてお話ししたい。1.痙縮への作用機序ボツリヌストキシンは神経筋伝達における神経終末でのアセチルコリン放出を抑制することで筋収縮を抑制することが知られている。しかし痙縮の患者に投与すると筋力低下に比べて筋トーヌスの低下が強いことがわかる。これはボツリヌストキシンが錘外筋よりも錐内筋(筋紡錘)へ効果が強いことにある。この二重効果により異常な筋緊張が抑制される(末梢性作用)。一方動物実験で一部のボツリヌストキシンは逆行性軸索流を介して直接脊髄へも効果を及ぼすことが報告されている。筋トーヌスの低下の一部はこの中枢作用も関与していることが考えられる。さらに脳卒中後の痙縮患者では脳磁気刺激試験やfMRIでボツリヌストキシンによる脳機能変化を来すことが報告され、おそらく間接的に脳からの下向性異常出力の改善にも関与することが考えられている(中枢性作用)。2.実臨床での問題点痙縮へのボツリヌス治療に際して、予想よりも効果が見られない場合や患者の満足度が得られないなどの問題点が出てきている。前者は主に治療手技、投与量の問題である。多くの論文で筋電図・超音波・電気刺激などの標的筋を適切に評価する手技がより効果を確実にすることが報告されている。また痙縮の程度に合わせた適切なボツリヌストキシンの投与量が重要であることも知られている。一方患者の満足度を上げるためには、施注前の十分説明が重要である。通常痙縮へのボツリヌス療法は何回かの治療による累積効果と適切なリハビリテーションの組み合わせで効果を発揮するため、その説明が必要である。またボツリヌス治療は総投与量の制限の点から、標的筋を絞る必要がある。その際には施注側の視点だけでなく、実生活での患者のニーズを重視することで、その後の治療を容易にする。