[LS9] 骨・血管・神経連関-骨粗鬆症研究・臨床の最前線-
人生100年時代を迎え,健康寿命の延伸の重要性が増してきている.健康寿命の延伸には骨,関節,脊椎といった運動器の健康の維持が不可欠である.これまで運動器の問題は,骨や関節のみの基礎および臨床研究で解決する試みがなされてきた.しかし,身体は一つの水槽のようなものである.この水槽の中に骨,血管,神経は浸っている.水槽を満たす水(全身性因子)の異常は,これら臓器に一様に負担をかけ病的な状態をもたらす.生活習慣病関連因子は,動脈硬化のみならず同時に骨の脆弱性を高め,骨密度の低下とは独立した機序で骨折リスクを高める.生活習慣病関連因子の中でもホモシステイン血症は骨折,動脈硬化による血管イベント,認知症といった「骨・血管・神経連関」をもたらす因子である.また,動脈硬化をもたらす生活習慣病(糖尿病,慢性腎不全,NASH)では血管老化のみならず骨折リスクが高まるエビデンスが集積されている.では,なぜこれらの血管,神経への悪影響因子が骨の脆弱性を高めるのか? 既に国際コンセンサスで,骨粗鬆症は骨密度のみならず,「骨質の低下」により骨強度が低下した状態であると定義されている.演者らは,骨質を規定する因子として骨基質成分(骨の材質)の出来不出来が,骨強度に影響を及ぼす事を,ヒト組織生検,臨床研究,動物実験で明らかにしてきた.骨・血管・神経連関をもたらす要因は,酸化ストレスの亢進であった.特にホモシステインは骨へ毒性が高く,軽度のホモシステイン血症でも臓器連関を誘導することを見出した(Saito M, Curr Osteoporos Rep [Review] 2018).こうした多様なリスク因子が存在することから骨折リスクの増大は,「低骨密度型」「骨質劣化型」「低骨密度+骨質劣化型」に分けて考える必要がある.骨質劣化を評価するバイオマーカーの開発が進み保険適応へ向けたキット開発も終了している.さらに,3つの病型に応じた薬剤選択の重要性が動物実験,大規模臨床試験で示されている.最も骨折リスクの高い「低骨密度+骨質劣化型」は骨折が重症化し,骨折の連鎖を誘導するため,骨密度と骨質を同時に改善する薬剤介入が必要となる.そこで,本講演では,骨粗鬆症の定義,診断基準,評価法,治療薬の選択について最新のデータを紹介し,骨・血管・神経連関についてディスカッションする.演者らの調査で骨密度・骨質同時改善剤であるロモソズマブはベースライン時のホモシステイン高値例においても安全性,有効性が確認されたので紹介したい.演者らの概念は国際ジャーナルOsteoporosis Internationalに招待総説として掲載され,その後,延べ6年間で最多引用top5論文賞を2期連続で受賞し(アジア人初),ガイドラインの執筆も担当している.(Saito M, Osteoporos Int [Review] 2010).