[50回大会記念シンポジウム-1] iPS細胞を用いた基礎研究
多能性幹細胞を特定の細胞へと分化を誘導するための培養技術は、脊椎動物などの発生過程を手本に、様々な方法が開発されてきた。演者らはこれまで、ヒト脳の発生と機能発現を理解することを大目的として、試験管内研究における技術開発を推し進めてきた。一連の研究を通じて、「神経発生の基底状態」や「細胞の自己組織化能」など、古典的な手法では解き明かせなかった謎を明らかにすることができた。多能性幹細胞の三次元培養により創出される脳オルガノイドは、試験管内で立体的にヒト脳発生が再現され、操作することのできる革新的研究ツールとして幅広い研究分野で用いられている。ヒトiPS細胞の開発成功以来、再生医療への取り組みとともに、根治療法のない疾患に対する創薬・治療法開発が期待されている。とりわけ、適切な動物モデルがない、動物モデルと実際の病態との乖離、希少疾患、患者試料の入手が困難な場合などは、患者の体細胞から作製された疾患特異的iPS細胞により、病態解明や治療法の研究開発が可能となる。疾患ごとに異なる責任細胞や組織レベルでの病態研究のためには、適切な分化誘導法の開発が求められる。長年の難病研究で蓄積されてきた知見に、幹細胞技術、発生生物学、神経科学的アプローチなどを融合させることにより、新たな疾患研究ツールが開発されつつある。本講演では、これまでの多能性幹細胞からの分化誘導法開発とこれを疾患特異的iPS細胞に活用した我々の取り組みをご紹介させて頂く。