日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

50回大会記念シンポジウム

50回大会記念シンポジウム iPS細胞の臨床応用-現状と未来-

2020年11月27日(金) 16:00 〜 18:00 第1会場 (2F A)

座長:人見 浩史(関西医科大学iPS・幹細胞再生医学講座)、木村 淳(アイオワ大学 神経科 臨床神経生理部門)

[50回大会記念シンポジウム-2] iPS細胞の臨床応用-現状と未来-

高橋淳 (京都大学 iPS細胞研究所)

iPS細胞とはinduced pluripotent stem cellの略で、日本語では人工多能性幹細胞と呼ばれる。多能性とは胎盤以外のあらゆる臓器に分化できる能力であり、幹細胞とは未分化な状態を保ったまま無限に増殖できる細胞を指す。また、初期胚から作製するES細胞(embryonic stem cell:胚性幹細胞)も多能性をもつ。この能力ゆえに、iPS細胞は細胞移植による再生医療の材料として期待されている。
神経領域における再生医療として、脳梗塞や頭部外傷に対する細胞移植の臨床試験が世界中で行われているが、今はまだ間葉系幹細胞の移植がほとんどであり、移植された細胞は長期生着せず数か月以内に死滅する。作用機序として神経保護、炎症抑制などが挙げられているが詳細については今後の検討を要する。より根本的な再生医療として多能性幹細胞から治療に必要な神経細胞あるいはグリア細胞を誘導し、移植によって神経回路を再構築して機能の回復を目指す治療が行われようとしている。多能性幹細胞を用いた細胞移植が最も進んでいるのは眼科領域だが、神経領域でも臨床試験が少しずつ始まりつつある。我々は2018年からパーキンソン病に対するドパミン神経前駆細胞移植治療を目指して医師主導治験を開始した。
iPS細胞は細胞移植以外にも病態解明や創薬のツールとしても利用されている。例えば遺伝性疾患の患者さんからiPS細胞を作製するとその遺伝子異常はiPS細胞にも引き継がれる。従って患者由来iPS細胞から分化細胞を誘導した場合には正常細胞と比べて機能低下が観察されることがあり、その原因を調べることにより病態解明が可能となる。あるいは、ある化合物等を作用させることにより機能低下が改善されればそれは新規治療薬として期待される。
このようにiPS細胞は医療や医学研究の在り方を大きく変えた。本講演ではこのようなiPS細胞の可能性について考えてみたい。