50th Memorial Annual Meeting of Japanese Society of Clinical Neurophysiology (JSCN)

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特別講演

特別講演1 神経伝導検査の波形分析

Thu. Nov 26, 2020 9:00 AM - 10:00 AM 第1会場 (2F A)

座長:谷口 愼一郎(関西医科大学整形外科)

[特別講演1] 神経伝導検査の波形分析

木村淳 (アイオワ大学 医学部 神経科 臨床神経生理部門)

末梢神経や脊髄の神経伝導検査は患者診察の延長であり、診断手技の基本と考えられる。電気診断法の目的は、主として神経疾患の解剖学的局在診断にある。この際、潜時と伝導速度が使われるが、導出電位の波形は更に有用で、神経内科の臨床診断と同様、麻痺、疲労、筋萎縮、脱神経、感覚鈍麻、局在性神経徴候などに用いられる。電気生理学検査は、病歴、神経学的診察から推測される病変の局在を確認、検索し、その障害の発生機序を明らかにするために行われる。主な目的は診断を確定することであるが、潜在性の病変、治療効果の判定や予後の指標にもなる。末梢神経伝導検査の波形分析でわかることには、 1)神経障害の有無、およびその障害部位はどこか、限局性病変か、汎発性病変か、2)近位部優位か、遠位部優位か、3)運動神経優位か、感覚神経優位か、4)脱髄主体か、軸索変性主体か、5)障害の病態と予後の判定などがある。脊髄疾患の検査にも同様の検索が可能で術中モニターなどに取り入れられている。神経伝導検査は、病変の種類により、短分節刺激で局所伝導を、逆にF波やH波で神経全長を計測したりするが、波形分析はInchingで特に重要視される。この手法は1cmあるいは2cm 間隔の刺激を神経走行に沿って加えるもので、局在性病変による伝導異常の検索に適し、特に病変部位を挟んで導出された波形の変動は障害部位確定の要となる。波形分析の基本は一般にインパルスが容積導体を伝導する際、常に三相性の電位変化を発生する事で実際、深部を伝導する活動電位を表面電極で記録すると、脱文極と再分極に相当する先行双極子と後続双極子の波面が遠くから接近し、記録電極(E1)に到達した後、反対方向に離れて行くのに伴ない陽性ー陰性ー陽性の波形が得られ、これは立体角理論で説明できる。インパルスがE1の直下で発生する場合は、近付いてくる陽性電位がないため、陰性波からの立ち上がりとなり、逆にインパルスが病変の為E1に到達できない場合は接近してくる陽性波のみで陰性波は発生しない。この現象は脊髄モニターでKilled End Effectと呼ばれ、神経伝導遮断の指標となる。時間的分散とは、刺激部位と記録部位の距離が長いほど各種線維の伝道時間の同期性が崩れる為、波形の持続時間が延長する事で、この現象は、健常者の神経でも伝導速度の異なる線維が混在するため生理的に認められる。特に持続時間が2―3msの短い知覚電位では時間的分散による1ms内外のずれでも、これに伴う振幅低下、また位相の打消しによる波形面積減少を認める。これに反して、10-15msと持続時間の長い筋電位では1ms程度のずれでは位相の打消しは起きない為、刺激部位による生理的波形の変化は少ない。しかし、伝導速度の低下をきたす病態、特に後天性の脱髄疾患では、筋電位にも著しい病的時間的分散が発生し、それに伴なう位相の打消しで波形面積が減少することが多い。