日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

シンポジウム

シンポジウム1 神経筋接合部の臨床検査:感度と特異度

2020年11月26日(木) 08:10 〜 09:40 第6会場 (2F I)

座長:今井 富裕(札幌医科大学 保健医療学部)

[SP1-1] 神経筋接合部疾患における自己抗体測定

中根俊成 (熊本大学病院 分子神経治療学寄附講座)

免疫異常が介在する神経筋接合部(neuromuscular junction, NMJ)疾患としては重症筋無力症(myasthenia gravis, MG)とランバート・イートン筋無力症候群(Lambert-Eaton myasthenic syndrome, LEMS)がある。そして両者においては自己抗体の存在が報告されている。
MGでは病原性のある自己抗体としては抗アセチルコリン受容体(AChR)抗体、抗MuSK抗体が既に知られている。第3の自己抗体の可能性がある抗LRP4抗体についてはその病原性、測定上の特異性がいまだ議論中である。AChR、MuSK、LRP4はいずれもNMJ形成に必須であり、これらの障害は神経筋伝達機能の阻害を意味する。これら病原性自己抗体以外にMGの病態への関連が示唆されている自己抗体としては抗横紋筋抗体がある。抗横紋筋抗体は骨格筋や心筋など横紋筋に発現する分子に対する自己抗体であり、これまでに抗titin抗体、抗Kv1.4抗体、抗リアノジン受容体抗体などが知られている。
LEMSでは神経終末(シナプス前部)に存在するP/Q型電位依存性カルシウムチャネル(voltage-gated calcium channel, VGCC)に対する自己抗体(抗P/Q型VGCC抗体)が最も認識されているが、ほかにもシナプトタグミン抗体についても報告がなされている。
MG、LEMSのような免疫異常が介在する疾患においては細胞内もしくは表面の種々の構成成分に対する自己抗体が産生される。その特異性は特定の疾患、臨床症状と密接に関連する臨床的に重要なバイオマーカーである。上述の自己抗体の各測定法、その感度と特異度について議論を進め、病態にどのように関わっているか、という点まで考察したい。バイオマーカーとしての重要性もさることながら、病因に関与する自己抗体かどうか、病原性自己抗体か、という点である。これまでに病原性自己抗体であることを証明するには5つの条件を満たすことが求められてきた。
1)対象となる自己抗体が患者で検出される。
2)自己抗体がターゲットとなる抗原と反応する。
3)自己抗体の投与により病態が再現される。
4)対応する抗原の免疫により疾患モデルが発現される。
5)自己抗体の力価低下による,病態が改善する。
これまで自己抗体の発見と測定、その病原性の確認には数々の手法が開発されてきている。自己抗体測定は実臨床においては1)と5)が該当し、正確さが要求される。自己抗体の病原性については2)から4)に関して研究室における証明が必要である。
今回の発表では免疫学の視点をベースにNMJ疾患における自己抗体研究に関する現在地を確認し,研究の将来的発展を考えてみたい。