50th Memorial Annual Meeting of Japanese Society of Clinical Neurophysiology (JSCN)

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シンポジウム

シンポジウム1 神経筋接合部の臨床検査:感度と特異度

Thu. Nov 26, 2020 8:10 AM - 9:40 AM 第6会場 (2F I)

座長:今井 富裕(札幌医科大学 保健医療学部)

[SP1-2] 同芯針電極を用いたjitter測定のピットフォール

中村友紀 (鹿児島大学 脳神経内科)

神経筋接合部(NMJ)伝達を評価する電気生理学的手法には、反復神経刺激と単線維筋電図(SFEMG)がある。SFEMGでは、記録範囲が極端に小さい特殊な針電極(SF電極)を用いることで、1ないし2本の単一筋線維活動電位(SFAP)を記録することが可能である。このSFAP発火の時間的ゆらぎをjitterと呼び、NMJ異常を検出する高感度な指標として重症筋無力症(MG)の診断に用いられてきた。
元来のSF電極は非常に高価であり、滅菌・メンテナンス後に再利用することで、1検査当たりのコストを下げていた。プリオン病感染リスクの懸念から、20年ほど前よりreuse針電極を用いることができない状況となったが、いまだ安価なdisposable SF電極が普及していない。現在では、商用で入手可能な最小記録範囲のdisposable同芯針電極(CN電極)を代用する方法が主となっている。その際、遠方からの電位混入を避けるため、HPFを1k~2kHzに設定する。それでも真のSFAPが記録されている確証はなく、あくまで「見かけ上の」SFAP(apparent SFAP)と表現される。CN電極記録では、多くのSFAPを含む点、記録位置の違いによる針保持の問題などがjitter値に影響してしまう。理論上は、SF電極記録よりも若干低いjitter値になると考えられている。そのため、以前のSF電極を用いた報告をそのまま流用することはできない。多施設共同によるCN電極jitter基準値が、日本と海外でそれぞれ報告されているが、筋肉によってはjitter値にかなりの差が生じている。apparent SFAP基準、フィルター設定、使用したCN電極径、ソフトウェア解析方法、外れ値の解釈、カットオフ値の決め方など、複数の要因が影響したものと推測される。
SFEMGは、NMJ異常を検出する電気生理学的手法としては、RNSよりはるかに鋭敏であるが、jitter増大=MGではない。MG以外のNMJ障害はもちろん、運動ニューロン病、筋炎、ミトコンドリア異常症(CPEO)などでも、jitter増大の報告がある。既報告におけるMG診断に対する感度は95%以上とかなり高いが、患者背景やjitter基準値次第で、大きく変化しうるため、SFEMG結果のみに依存したMG診断は困難である。
SFEMGの歴史は古いが、技術的な難易度から、広く普及するには至っていない。一方で、重症筋無力症診療ガイドライン2014では診断検査項目の一つに含まれ、また今年度より保険収載された。過剰診断や見逃しを減らし、臨床判断に活用していくには、CN-jitter測定の仕組みやピットフォールの理解が不可欠である。今後、より広く普及していくことで、適切に設定された多くの臨床研究が進むことが望まれる。