[SP10-3] 片頭痛患者における脳幹反射
片頭痛患者を対象としたPETやfunctional MRIを用いての研究は多々行われ、脳幹のactivationがよく知られている。一方、脳幹の機能評価に、我々が臨床の現場でよく用いる生理検査としてBlink Reflex とAuditory Brainstem Response(ABR)があり、これらを用いた片頭痛患者の研究もあるが、我が国ではあまり普及していない。Blink Reflexは三叉神経の眼窩上神経を電気刺激し、脳幹反射として導出される眼輪筋誘発電位を記録する。R1とR2という2つの反応からなり、R1は橋の三叉神経核近辺にある少数のシナプス、R2は延髄の三叉神経脊髄路・網様体の多数のシナプスを介する反射とされており、三叉神経,顔面神経の障害や脳幹機能の評価に用いられている。R1は刺激と同側でのみ、R2は同側と対側にほぼ同時に出現する。ここで、刺激を2回、或いはさらに連発して与えるとR1の波形にはほとんど変化を認めないが、R2の面積は生理的なHabituationのため徐々に減少して最後には消失する。この現象を定量的に計測するため、2回或いは連続刺激の刺激間隔を横軸とし、導出されるR2のベースライン値に対する面積比(%Area)を縦軸にプロットして表し回復曲線を描くことができる。これまでに,パーキンソン病やジストニアなどの中枢性疾患においてR2回復曲線の検討がなされ,Habituationの抑制が確認されている。片頭痛でも同様の検討が可能で、頭痛発作後72時間以内であれば、normal control群や発作後3日以上経過している群と比し、Habituationの抑制を認められている。次に、脳幹前兆をともなう片頭痛患者の発作前後でABRを用いて経時的に検討した症例を紹介する。38歳の女性検査技師で、頭痛発作前に一回、ほぼ連続的に発作が継続した1週間中に4回、回復数日後に一回試行されており、極性が異なるrarefaction click(鼓膜に対して陰圧)とcondensation click(鼓膜に対して陽圧)が用いられた。結果は頭痛発作時にrarefaction click のみでIV波とV波の顕著な波形変化とdelayが認められ、頭痛発作後には正常化した。このPolarity 依存性の異常波形が示唆する病態生理学的意義は不明だが、片頭痛発作時に脳幹に可逆的な機能的変化がもたらされていることは極めて興味深い。また、臨床の現場で汎用されているA B Rで、rarefactionとcondensation刺激による誘発電位に解離が有りうることから、両方の極性を用いて計測し、比較検討することの重要性を知ることができた。