[SP11-1] 神経磁場計測システムの開発
【はじめに】われわれは生体磁気計測の技術を応用して、脊髄・脊髄神経の非侵襲的な機能診断を行う神経磁場計測システムの研究開発を進めている。近年、臨床応用に適用しうるプロトタイプが開発され、また、データ解析法の進歩や検査方法の確立により、脊髄・脊髄神経のみならず、腕神経叢や手根管など、身体の様々な部位に適用して多様な神経の機能イメージングが可能となってきた。本発表では最新の神経磁場計測システムの技術的側面について述べる。【神経磁場計測システムの構成】体表面に現れる神経磁場は微弱なため、脳磁計などの従来の生体磁気計測と同様に、超電導量子干渉素子(SQUID)を応用した磁束センサを用いて検出する。SQUIDを超電導状態に保つ液体ヘリウム容器は、円筒状の容器本体の側面から水平方向に突き出した部分を持つ特殊な構造である。突き出し部分の上面に沿って上向きにSQUIDセンサが配置されており、仰臥位の被験者の背側から脊髄にセンサを近接させられるようになっている。また、センサ部に載せられさえすれば、身体の任意の部位の磁場分布を測定することができる。本システムで使用するSQUIDセンサは、体表面に対して法線方向とそれに直交する2方向の合計3方向の磁場を測定するようになっており、約190 mm×150 mmの領域内の磁場分布をベクトル情報として取得できる。磁場分解能は白色領域で2 fT/rtHz以下である。磁場計測による神経機能イメージングでは、隣り合うセンサからの出力波形の位相差が神経信号の伝導速度を見積もるための重要な情報となる。この位相差を精密に得るために、最大40 kHzの比較的高速なサンプリングレートでのデータ収録が可能となっている。【空間フィルタ法による信号処理と磁場源解析】神経磁場計測では、電気刺激で誘発し、軸索に沿って伝搬する信号を検出する。刺激部位が測定部位に近ければ、比較的大きな信号を得られるが、信号波形が電気刺激によるアーチファクトの影響を受ける。空間フィルタ法による信号処理でアーチファクト由来の信号波形の歪みの補正が可能となり、より良好な信号雑音比が得られるようになった。また、磁場データから推定される電流分布の変化をX線像と重畳して表示することができるが、RENSフィルタ法と呼ばれる新しい磁場源解析アルゴリズムにより、空間分解能が向上した。【結語】神経磁場計測による機能イメージングは高い汎用性を持ち、新しい神経機能診断法として有効であるが、従来の脳磁計と同様にSQUIDを超電導状態に保つための液体ヘリウムを必要とする。この液体ヘリウム消費による高額なランニングコストは病院への導入の障壁となっていたが、冷凍機による液体ヘリウムのリサイクルが実現し、ランニングコストが大幅に低減した。現在、民間企業と協力して、医療機器として早期の製品化に取り組んでいる。