[SP12-1] 精神科で遭遇する偶発的な筋活動低下を伴わないレム睡眠とその臨床的特徴
高齢発症のレム睡眠行動障害(RBD)は、レム睡眠中の骨格筋抑制機構の異常によって生じる睡眠時随伴症の1つであるが、加齢に関連した神経変性疾患であるパーキンソン病やレビー小体型認知症といったレビー小体病の発症にしばしば先行することから、発症前治療介入を目的とした早期マーカーとしての関心が高まっている。RBDの診断には、夢内容に一致した行動に加え、睡眠ポリグラフ検査における、筋活動低下を伴わないレム睡眠(REM sleep Without Atonia: RWA)の存在が不可欠である。ところが、睡眠ポリグラフ検査によって、睡眠時無呼吸症候群など他の睡眠障害がなく、さらに臨床的にRBDの病歴が聴取できなくても、偶発的にRWAが観察されることがあり、この一群はisolated RWAと呼ばれている。高齢期にisolated RWAを呈する一群の臨床的特徴として、嗅覚低下、自律神経障害、認知機能障害、経頭蓋黒質超音波検査による黒質高輝度、線条体ドパミントランスポーターの取り込み低下などが報告され、抗うつ薬使用との関連性も指摘されているが、isolated RWAの臨床的意義については未だ十分に解明されていない。そこで、我々は高齢発症の精神疾患において少なからず遭遇するisolated RWAを示す一群に着目し、脳血流・基底核ドーパミントランスポーター・MIBG心筋シンチグラフィといった神経画像検査所見も踏まえて臨床的特徴を検討している。その結果、うつ病と診断されている症例や抗うつ薬使用症例において併発する割合が高く、レビー小体病の支持的特徴を有し、神経画像所見ではレビー小体病と部分的に共通する特徴を有することを明らかにした。50歳未満のレム睡眠行動障害では、自己免疫疾患・精神疾患の併存、女性が多いことが指摘されており、高齢発症RBDと病態が異なる可能性がある。精神疾患におけるisolated RWAの知見は乏しく、臨床的意義は明らかになっていない。Isolated RWAを含めたRBDは、精神科診療においても鑑別診断や予後を考える上で有用な臨床マーカーになると考えられる。本発表では、精神疾患におけるisolated RWAの臨床的意義について議論する。なお、本学で行った研究については、名古屋大学医学部附属病院生命倫理審査委員会の承認を得ている。