[SP14-2] 機能性筋力低下の電気生理
昨年に引き続き、機能性神経障害(functional neurological disorders [FND]、別名転換性障害、ヒステリー)についてのシンポジウムを臨床神経生理学会でとり行うようにと指名された。近年神経学会でも毎年のようにヒステリーについての教育コースなどが企画されている。特に日本の神経学では、長らく無視されてきた存在だったヒステリーに日が当たってきたのは喜ばしいことだが、それはなぜなのか・・・おそらく実は世の中に非常に多いcommon diseaseであるFNDの対処に皆が困っていた、「胸郭出口症候群」など器質的疾患の枠に無理矢理あてはめようとしてきた試みにも限界が生じたためではないかと思われる。世界的にもエジンバラのStoneらを中心にFNDについて近年数多くの論文が出され、特に治療においても明確な指針が示されてきている(演者がヒステリーからFNDに呼び名を変えたのも、エジンバラグループがこの名称を用いているためである)。このような現代的なアプローチによってFNDを診断治療することは、医療費の節約にもつながるものであり、是非とも多くの医療者に取り入れて欲しいと願っている。FND、とりわけ機能性筋力低下の診断においては、神経症候学と電気生理が二本柱となる。症候学では種々の陽性徴候を認識することがポイントとなる。これは、Hoover徴候、Sonoo外転徴候などに限るものではなく、まさにBabinskiが見つけた「片麻痺なのにBabinski徴候が見られない」こと、一側性の麻痺があるのに腱反射に左右差がないなどからスタートする。Give-way weaknessもよく知られているが、FNDに特異的な徴候ではないことには注意を要する。筋力低下分布も重要な手がかりとなり、錐体路性の麻痺では、上肢で伸筋、下肢で屈筋優位などの特徴的な筋力低下を呈するが、ヒステリー性麻痺では屈伸筋の差がない、あるいは錐体路性の分布と逆となる。上肢では指の屈筋や手関節屈筋の麻痺を来しやすく、後者に関連した“paradoxical wrist flexion”という新しい陽性徴候も紹介する。電気生理では、高度の麻痺筋を記録筋とした神経伝導検査(NCS)が可能であればまずそれを行うとよい。複合筋活動電位振幅が正常で、近位まで追っても伝導ブロックがなく、F波も正常に返ってくることを確認する。針筋電図は対象とできる筋がNCSよりも多いので有用性が高い。筋力低下の最も目立つ筋で針筋電図を行い、脱神経の所見がなく、賦活不良(poor activation)の動員パターンであることが確認できれば、中枢性筋力低下であると結論できる。つまりNCSでも針筋電図でもここまでで共通して下位運動ニューロン由来の筋力低下でないことが証明できるので、Guillain-Barre症候群・CIDPや胸郭出口症候群が疑われている時には、それを否定する根拠となる。それで錐体路徴候がないなら、ヒステリー性麻痺と結論できる。感覚脱失がある場合にはSEPが正常であることの証明がFNDの診断に役立つ。