日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

シンポジウム

シンポジウム14 機能性神経障害とその電気生理

2020年11月27日(金) 08:20 〜 09:50 第6会場 (2F I)

座長:園生 雅弘(帝京大学医学部脳神経内科)、吉村 匡史(関西医科大学医学部精神神経科学教室)

[SP14-4] 転換性障害の理解と治療

渡辺俊之 (高崎西口精神療法研修室)

 転換性障害とは、喪失体験、過剰なストレス、心的外傷といった心理的要因に伴う情動や記憶が身体症状に転換される疾患である。身体的原因を探すことができない随意運動機能障害や感覚機能の異常が生ずる。運動障害は随意運動機能に障害が出る。姿勢を保てない、立てない、歩けない、声を出せない、手が動かないと訴え、検査要求するが身体的異常は発見できない。感覚障害は、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の領域に生ずる。見えない、聞こえない、においや味がわからない、熱い冷 たいが触ってもわからないといった感覚消失や、特別な感覚(異臭、変味、誰かに触られている等)が伴う場合がある。 患者が症状を固定させているのは疾病への逃避が生じているからである。精神医学的には疾病利得(gain)と呼ばれる。病気があるので、嫌な職場や学校に行かなくてすんだり、家族や友人から世話をされたり、注目されたりすることで満足を得る。疾病利得は,患者の意図的な産物ではない。無意識的につくり出された症状なので患者は実際に困っていることを忘れてはいけない。 脳イメージングは新たな仮説を提供している。患者は麻痺脚を動かそうとしたが右側の一次運動野が活性化されず、代わりに右眼窩前頭皮質と右前帯状回の活性化が認められたという。眼窩前頭皮質および前帯状回が関与する抑制性の経路が運動前野を一次運動野から「切断」し、患者の意 識的な意図が運動に転換されるのを妨げているという報告がある。 転換性障害を精神科外来で診ることは減った印象がある。患者の多くは神経内科、整形外科、リハビリテーション科等に行くのであろう。何科で治療するにしても、治療の根幹は疾病利得を外すことにかかっている。何故、患者は障害にしがみつかねばならないのか,どうして障害が生じたのかといった心理社会的側面から、症状形成と疾病利得の背景を患者と一緒に理解していくことである。「歩けないよりも歩けた方が良い」と思えるような支援が必要になる。運動療法は運動障害の二次的合併である筋力低下やこわばりの防止には不可欠な治療であるし、患者への心理的アプローチにも有効である。 医療者文脈で「患者の障害は精神的問題」と患者の考えを頭から否定すると治療関係は不安定になる。患者文脈の「障害は身体的問題」というストーリーを認めた上で、徐々に文脈改変し「症状がない生活のが有意義なんだ」と思えるような支援を続けていくことであろう。患者は医療スタッフに対して、人生で出会った重要な人物(父親、母親、息子、娘・・)を重ね、過去の感情を向けるようになる。この現象が転移(Transference)である。患者は医師や看護師や訓練士を心の中で「誰」として体験し、どんな「感情」を持っているかを知ることも大切であろう。