日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

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シンポジウム

シンポジウム15 上肢絞扼性神経障害の診療の実際~各診療科における役割~

2020年11月27日(金) 10:10 〜 11:40 第5会場 (1F C-2)

座長:信田 進吾(東北労災病院整形外科)、逸見 祥司(川崎医科大学附属病院 脳神経内科)

[SP15-1] 脳神経内科の立場から

大石知瑞子1, 園生雅弘2 (1.杏林大学 医学部 脳神経内科, 2.帝京大学 医学部 脳神経内科)

上肢絞扼性神経障害で有名なものには、手根管症候群(CTS)、尺骨神経絞扼性障害:肘部の場合UNE(Unlar nerve entrapment at the elbow:広義の肘部管症候群)、手首部の場合UNW(Unlar nerve entrapment at the wrist:広義のギオン管症候群)、サタデーナイト麻痺・ハネムーン麻痺とも言われる圧迫性橈骨神経麻痺などがある。これらは電気生理に関わっていればよく出会う疾患であるが、脳神経内科医にコンサルトが来た場合には、症状や電気生理学的検査が示す結果から単純に絞扼性ニューロパチーと解釈してよいのか?違う病態が類似の所見を呈している可能性はないか?ということを念頭におくべきである。そして鑑別のためには、脳神経内科医としての疾患知識を持ち、詳細なる病歴聴取と神経診察をした上で、正しい筋電図検査(電気生理学的検査)をすること、もしくは検査結果を正しく解釈することが重要となる。すなわち、NCSを含めた筋電図検査(電気生理学的検査)は、その結果のみで診断するものではなく、神経症候の延長にあるもので検査の基本とpitfallを十分に理解して、診断の補助として用いなければならない。以上を踏まえた上で、上肢絞扼性神経障害と鑑別が必要な症例についていくつか記載する。NCSで正中神経の遠位潜時延長を見た場合、CTSが第一に考えられるであろう。しかし、正中神経の遠位潜時延長は糖尿病患者でも見られる現象であり、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などで運動単位電位(MUP)が減少して速度の早い神経線維が消失すれば、結果として遠位潜時延長が生じる。また、正中神経の遠位潜時延長と著明な複合筋活動電位(CMAP)振幅低下があるにも関わらず、感覚神経活動電位(SNAP)が全く正常であった場合には、正中神経障害ではなく、真の神経性胸郭出口症候群などの腕神経叢障害も念頭におく必要がある。また、正中神経以外の神経においても遠位潜時の延長が見られた場合には、遺伝性圧脆弱性ニューロパチー(HNPP)も鑑別に上がるだろう。胸骨正中切開術後腕神経叢障害にC8前枝の障害が生じることが報告されているが、これは術後のしびれなので、挿管に伴う頸椎症悪化や術中体位に関係したUNEが原因と誤診されている症例も少なからずあると推測される。この鑑別は電気生理学的検査以外では困難である。圧迫性橈骨神経麻痺では下垂手を主訴に来院されるが、中心前回のhand motor areaに脳梗塞が生じると一見類似の症状となる。両者とも起床時突然発症という点も同じだが、治療が全く異なることからもしっかり鑑別が必要となる。基本的には正しい診察をすれば、判断できるはずで、また頭部MRIで見逃すことはないと思うが、この種の脳梗塞は微小であるため、頭部CTで判断することは困難である。NCSや針筋電図で診断が可能であることは知っておくとよい。