50th Memorial Annual Meeting of Japanese Society of Clinical Neurophysiology (JSCN)

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シンポジウム

シンポジウム16 脳卒中上肢運動麻痺への様々なアプローチ

Fri. Nov 27, 2020 1:15 PM - 2:45 PM 第7会場 (2F J)

座長:菅原 憲一(神奈川県立保健福祉大学)、鈴木 俊明(関西医療大学大学院 保健医療学研究科)

[SP16-3] 身体性視覚フィードバックによる脳卒中後運動麻痺に対するアプローチ

金子文成 (慶應義塾大学 医学部 リハビリテーション医学教室)

【はじめに】
感覚運動機能の一つに,認知や知覚機能に問題がない被験者が安静にしているにもかかわらず,感覚入力によって,現実に運動を実行している時と共通する感覚が意識にのぼる運動錯覚がある。腱振動刺激を閉眼で付与すると,標的筋が伸張される方向の関節運動が知覚されるが,開眼では標的筋から緊張性振動反射が誘発される。これは,運動錯覚が,複数感覚モダリティの統合結果として誘導されるものであることを示す。視覚入力でも運動錯覚が誘導されることが知られている。ゴムの手錯覚(身体所有感)のように,被験者の本来の手を覆い隠した状態で,コンピュータグラフィクスや録画映像などの仮想身体を本来の手に置き換えて配する。その仮想身体の運動を観察させるという方法である。この時に被験者は主観的に自己身体像が運動しているような錯覚が誘導される(kinesthetic illusion induced by visual stimulation: KINVIS)。
【システムと使用方法】
閉鎖空間で液晶ディスプレイによって視覚刺激をするBox型と(KiNvisTM-BOX)ヘッドマウントディスプレイを使用するHMD型が(KiNvisTM-HMD)あり,多種モダリティの連合刺激が可能である。また,脳波計や筋電計と連動させて,随意的な運動意図に対する視覚フィードバックを行なうニューロフィードバックエクササイズが可能である。
【生理学的背景と脳卒中後運動麻痺に対する効果】
単に他者の運動を観察している時よりも一次運動野興奮性が有意に高まる。機能的MRI研究では,腹側および背側運動前野,補足運動野,頭頂間溝付近の下頭頂小葉,島皮質,線条体などの活動が,単なる運動観察よりも有意に高まり,それらの神経ネットワークは,運動実行と共通する神経基盤であることを報告した。
脳卒中後の片麻痺に関する症例集積研究の結果を示す。上肢の重度麻痺を呈する脳卒中片麻痺患者11名(発症から5ヶ月~112ヶ月)を対象とした。1日20分間のKINVIS療法(運動錯覚と同期した神経筋電気刺激)と1時間の上肢運動療法を介入とし,10日間実施した。運動機能を評価するFMAは2.3点改善し,統計学的に有意差が示された。同様に,痙縮を評価するMASも手関節屈筋で平均3.0±1.2点から1.8±1.1点へと有意に改善し,臨床的最小重要差を超えていた。また,機能的MRIにより安静時脳機能結合と運動機能スコアの関係を解析した。最も両者の関係が明確に示されたのは,両側頭頂間溝付近についてであり,介入前は負の相関を示していたが,介入後には正の相関となり,有意に変化していた。
【おわりに】
KINVIS療法は視覚刺激を用いて自己の身体を拡張する感覚を誘起することで長期的には身体性変容効果をもたらすことが期待されるところに価値がある。さらに,神経生理学的に神経回路を強化する効果が期待できるように脳活動と末梢からの刺激を同期化して付与するものである。現在,さらに臨床試験を進めている最中である。