日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

シンポジウム

シンポジウム2 発達障害の事象関連脳活動:事象関連電位を中心に

2020年11月26日(木) 08:10 〜 09:40 第7会場 (2F J)

座長:稲垣 真澄(鳥取県立 鳥取療育園)、板垣 俊太郎(福島県立医科大学神経精神医学講座)

[SP2-1] 事象関連電位を用いたADHD治療薬への反応予測の可能性

太田豊作 (奈良県立医科大学 精神医学講座)

注意欠如・多動症(ADHD)は、不注意、多動性、衝動性を中核症状とする神経発達症である。ADHDの生物学的研究は様々な見地から行われており、米国ではADHDではθ波帯が増加し、β波帯が減少しているという脳波研究の結果を用いて判定を行うNeuropsychiatric EEG-Based ADHD Assessment Aid(NEBA)Systemという検査装置が米国食品医薬品局の承認を得てADHDの診断補助として臨床で用いられるなど様々な研究領域の中でも精神生理学的研究は重要な位置を占めるようになっている。われわれの研究グループは、これまで事象関連電位の成分のP300とミスマッチ陰性電位に注目して研究を行い、小児期ADHDではP300の潜時の延長と振幅の低下、ミスマッチ陰性電位の振幅の低下が認められる一方で、成人期ADHDではミスマッチ陰性電位に異常はなく、P300の振幅の低下のみが認められることを報告してきた(太田,児精医誌 2018)。また、P300やミスマッチ陰性電位がADHD症状重症度と相関し、薬物治療によりP300やミスマッチ陰性電位の異常が正常化する可能性も示してきた(Sawada M et al., Psychiatry Clin Neurosci 2010; Yamamuro K et al., Psychiatry Res 2016)。
現在、小児期においてADHD治療薬は4剤(徐放性メチルフェニデート、アトモキセチン、グアンファシン、リスデキサンフェタミン)が使用可能となり、安全に負担なく薬物治療を行うためには使用薬剤の選択基準の確立が求められており、われわれは事象関連電位による治療効果の反応予測の可能性を検討している。小児期ADHDを対象として治療前にP300を測定し、薬物治療への反応群・非反応群で比較すると、徐放性メチルフェニデートでは非反応群と比較して反応群のP300は有意に低振幅であった。つまり、P300の低振幅が徐放性メチルフェニデートへの反応を予測する可能性が考えられた。またアトモキセチンでは、反応群と比較して非反応群のP300の潜時は有意に延長しており、P300の潜時延長がアトモキセチンへ反応しないことを予測する可能性が考えられた。これらは、対象数も少なく、いずれも非盲検の検討であり、今後も検討を継続する必要がある。
このように、ADHDの薬物治療において事象関連電位を用いて治療効果の反応性の予測または非反応性の予測を行える可能性が考えられる。本演題では、演者らが行っている研究の一部やこれまでの研究報告を提示しながら、事象関連電位を用いたADHD治療薬への反応予測の可能性を検討したい。なお、本演題のなかで提示する演者らの研究については、いずれも奈良県立医科大学医の倫理審査委員会の承認を得て行った。また、本演題に関連し、開示すべき利益相反は存在しない。