50th Memorial Annual Meeting of Japanese Society of Clinical Neurophysiology (JSCN)

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シンポジウム

シンポジウム2 発達障害の事象関連脳活動:事象関連電位を中心に

Thu. Nov 26, 2020 8:10 AM - 9:40 AM 第7会場 (2F J)

座長:稲垣 真澄(鳥取県立 鳥取療育園)、板垣 俊太郎(福島県立医科大学神経精神医学講座)

[SP2-2] 発達障害の認知機能解析:限局性学習症を中心に

加賀佳美1,2 (1.山梨大学医学部小児科, 2.国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的発達障害研究部)

 限局性学習症は全般的な知能が平均的でかつ学習環境に問題がないにも関わらず、読み書きや計算など特定の領域における習得困難が見られる状態を示す。読字障害、書字障害、算数障害などがあり、中でも発達性読字障害(developmental dyslexia: DD)は、流暢な単語認識の困難と、綴りや文字記号の音声化が拙劣であることが特徴である。こうした読字困難は言語の音韻要素の障害によるものと考えられており、その病態としては、音韻処理障害説、急速聴覚処理障害説、視覚障害説、大細胞障害説などがある。機能的MRIを用いたDDの検討では、音韻処理を行う左頭頂部移行部(縁上回・下頭頂小葉)と形態認知に関わる紡錘状回では活動が減衰し、語の表出に関わる下前頭回ではむしろ活動が増強すると報告されており、左頭頂移行部と紡錘状回の機能異常が指摘されている。
 事象関連電位を用いた研究としては、聴覚のMismatch Negativity(MMN)がある。DD患者の言語音に対するMMNでは、潜時延長や振幅低下が報告されている。また意味的逸脱反応時に出現するN400を用いた研究では、振幅低下や消失を認め、意味的なプライミング効果が得られないことも報告されている。すなわち言語音の聞き取りが悪く、意味処理過程にも異常があることが指摘されている。
 一方、音韻処理や聴覚認知だけでなく文字を読むという行為には視覚からの文字情報を認識する必要があることから、視覚経路の機能異常も推測される。臨床的には、日本人では、漢字学習が始まる小学校中学年頃に読字障害が顕著化する例が多く、特に漢字書字に困難性を示す書字障害例も少なくない。このような症例の存在は漢字認識困難に日本人特有の病態がある可能性を示唆する。そこでわれわれは、日本人特有のDDの特徴を明らかにするために、漢字二文字の熟語を視覚的に提示し、脳波より空間分解能に優れた脳磁図(MEG)を用いて、漢字熟語に対する脳活動について計測を行った。刺激は中心部に無音動画を提示し、右視野に異なる文字刺激を2:8の頻度で提示した。対象者には中心の動画に注目するよう指示した。課題1:フォントの異なる熟語、課題2:意味的な逸脱熟語について、306ch全頭型脳磁計を用いて計測を行った。成人対照群では、課題1で、110msec付近にM1、200msec付近にM2を認め、後頭極M2でDeviantの活動が高くなっていた。一方、DD例では、課題1ではM1Deviantの潜時延長とM2潜時遷延を認め、課題2では紡錘状回M1およびM2潜時が延長していた。DD例では、漢字認識の際に一次視覚野における逸脱反応処理と、紡錘状回での熟語認知についての機能異常が推測された。
 このように文字を読むという行為には、視覚認知、聴覚認知、音韻処理、意味処理など様々な脳機能が関与しており、症例によって個々の病態が存在する可能性があり、それぞれの機能について明らかにしていく必要がある。