50th Memorial Annual Meeting of Japanese Society of Clinical Neurophysiology (JSCN)

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シンポジウム

シンポジウム2 発達障害の事象関連脳活動:事象関連電位を中心に

Thu. Nov 26, 2020 8:10 AM - 9:40 AM 第7会場 (2F J)

座長:稲垣 真澄(鳥取県立 鳥取療育園)、板垣 俊太郎(福島県立医科大学神経精神医学講座)

[SP2-3] 自閉症スペクトラム傾向者の感覚処理とMMN

池田一成1, 日高茂暢2 (1.東京学芸大学 教育学部, 2.佐賀大学 教育学部)

 現在,自閉症スペクトラム障害(ASD)と健常者の間には心理特性上の連続性があると考えられている。このASD傾向を測定する心理尺度の1つとして自閉症スペクトラム指数(AQ)が考案されており,ASDの診断に至らなくても高いAQを示す人々の存在が指摘されている。またASDには感覚過敏や鈍麻といった感覚処理の特徴を示す事例が多いことが知られており,感覚処理における突出した行動はASDの診断基準の一部に採用されている。ASDに顕著な感覚処理の特徴を評価できる心理尺度として感覚プロファイル(SP)がある。先行研究によれば,ASDの診断の有無とは独立に,AQの上昇に伴い青年・成人用SP(AASP)の得点が上昇することが示された(Mayer, 2017)。
 柳・池田(2017)が対象にしたASD診断のない大学生において,AQの高い群はAQの低い群よりもAASPにおいて低登録,感覚過敏,感覚回避の得点が高くなり,ASD診断のある対象者での先行研究結果と同じ傾向を示した。柳・池田(2017)は同じ対象者のミスマッチ陰性電位(MMN)を計測し,非言語音に対する大域処理と局所処理をBekinschtein et al.(2009)のパラダイムで検討した。通説ではASDにおいて大域処理が局所処理より不得意であるとされたが,通説と異なる次の知見が得られた。AQの高い群と低い群のMMNを比較したところ,局所的逸脱の振幅はAQの高い群でより減衰し,大域的逸脱に対する振幅では両群の間に差が無かった。この結果は同様のパラダイムでASD診断群と定型発達群のMMNを比較したGoris et al.(2018)の知見と一致する。
 荒川・日高(2019)はASD診断のない大学生において言語音に対するMMNを計測した。通説ではASDにおけるコミュニケーション障害の基盤として音声の弁別困難が想定されたが,やはり通説と異なる次の知見が得られた。イントネーションが「雨」から同音異義語の「飴」へ変化する際の逸脱に対して,MMN振幅はAQが高い参加者ほど増強する傾向を示した。また同じMMN振幅はAASPの低登録の得点が高い参加者ほど増強する傾向を示した。
 MMN振幅とAQとの関連は,柳・池田(2017)においてAQが高いほど局所的逸脱の振幅が減衰し,荒川・日高(2019)ではAQが高いほどイントネーション逸脱の振幅が増強しており,研究間で表面的には一致していない。しかし,感覚処理の閾の次元を想定すると,両研究の間に連続性が認められる。柳・池田(2017)のデータではAASPの感覚過敏の高い人でMMNがより減衰し,荒川・日高(2019)では低登録の高い人ほど増強した。この結果はASD傾向者において,感覚処理の閾の次元が低くなるほどMMN振幅が減衰することを示すのかも知れない(Ludlow et al., 2014)。