[SP21-1] 作業療法の未来
作業療法は人々の健康と幸福を促進するために、医療・保健・福祉・教育・職業などの領域で行われる作業に焦点を当てた治療、指導、援助であり、その実践には心身機能の回復、維持、あるいは低下を予防が含まれる。これらの作業療法の実践には、「学習」が不可欠である。作業療法の対象者は、身体・認知・精神機能に多様な障害をきたした者であり、その認知特性に合わせた学習に有効な刺激入力方法を確立することが、これからの作業療法研究に不可欠である。 電気生理学的評価法の一つである脳波は、簡易で非侵襲に脳活動を調べる検査であり、リハビリテーションを実践する施設にも広く普及している。また長年の臨床応用により安全性が確認され、実施しやすいという特徴を持つことから、認知機能障害をきたす幅広い精神神経疾患の評価方法として広く用いられている。特に作業療法領域への応用には、認知機能障害を呈するさまざまな疾患、症状に、有効な評価方法の確立が必要などの課題がある。本報告では、我々の研究グループでの健常者を対象とした研究や、過去の論文より脳波を用いた手法に関する報告を中心とし、認知機能障害をきたす者への適応と作業療法への応用について論じる。作業療法研究において、自己身体の認識の脳内表現は重要なテーマの一つである。「自己の手への参照処理過程に関連する頭頂部ガンマ帯域活動の検討」では、視覚oddball課題を用いて自己の手の視覚刺激が自己参照に特異的な脳活動を誘発し得るかを検討した。健常若年者に手の3刺激視覚oddball課題を3条件で実施し、各条件に対する誘発電位に対して時間周波数解析を行い、条件内の新奇刺激と標準刺激に対する脳律動活動の条件内での統計差分を行った。self条件のみでCz電極において650-900msの潜時で60-80Hzの帯域に有意な活動の増加が認められ、頭頂部におけるガンマ帯域活動がボディイメージ統合に関わる頭頂連合野の活動を反映した可能性が示唆された。muリズムは、運動や感覚の脳波バイオマーカーとして用いられてきたが、老化による影響についてはあまり知られていない。「muリズムを利用した高齢者の運動機能評価」では、加齢に伴うmuリズムの変化を中心に、高齢者の5つの特徴、安静時により大きなベータパワーを示す、mu ERDを増加させる、mu ERDの開始時期が早く、終了時期が遅くなる、随意運動時のmu ERDの対称的なパターン、動員増加を示す、運動終了後のβリバウンドが大幅に減少することに着目し、その運動機能・認知機能との関連の検討を予定している。 以上のように、作業療法における認知機能の評価手段として脳波利用の現状と発展性について述べた。今後は、脳内の機能的連結性の評価法を用いて認知リハビリテーションへの応用をはかり、対象者の学習に着目したテーラーメイドの作業療法展開の可能性を探っていきたい。