50th Memorial Annual Meeting of Japanese Society of Clinical Neurophysiology (JSCN)

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シンポジウム

シンポジウム21 作業療法学と臨床神経生理学の融合

Sat. Nov 28, 2020 3:20 PM - 4:50 PM 第5会場 (1F C-2)

座長:石井 良平(大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科 臨床支援系領域)、稲富 宏之(京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻)

[SP21-3] 手工芸活動中の脳波と自律神経機能の変化:作業療法の有効性に関するエビデンス

白岩圭悟, 山田純栄, 西田百合香, 十一元三 (京都大学大学院 医学研究科 人間健康科学系専攻)

【目的】
精神科領域における作業療法では、手工芸活動は不安や焦燥感などの症状を軽減させる手段として用いられている。これは我を忘れて手工芸活動に集中することによる効用と考えられる。本研究の目的は、手工芸活動中のFmθ(Frontal midline theta rhythm)と自律神経活動の変化を調べ、そして作業療法が治療的有効性を発揮する生理的メカニズムを探求することである。なお、本研究は対象者に書面にて同意を得ており、帰属組織の倫理員会の承認を受けて実施された。
【方法】
健常者28名を対象として実験を行い、このうち課題施行中に明確にFmθが出現した9名(22.4±1.6歳)を解析の対象とした。Fmθの判断は山口ら(1984)の基準に従い、心電図についてはR-R間隔を記録しLorenz plot法(Toichi M et al,1997)にて、副交感神経系の指標であるCVI(Cardiac Vagal Index)、交感神経系の指標であるCSI(Cardiac Sympathetic Index)を算出した。実験は、安静条件3分(十字を見る課題)に続いて、課題条件7分(ネット手芸)を実施し、それぞれのCVI、CSIの平均値を算出した。安静期とFmθ出現期のCSIとCVI、RRI平均値について対応のあるt検定を行った。また、Fmθの出現回数とパワー値について、各期のCSI、CVI、およびそれぞれの変化量との相関分析を行った。
【結果】
CSI、CVIともにFmθ条件では安静条件と比較して有意な増加を示した(CSI:t(8)=2.578、p=0.049;CVI:t(8)=2.323、p=0.033、paired t test)。RRI平均値は安静条件に比べてFmθ条件では減少する傾向にあったが有意差はなかった(t(8)=1.215、p=0.259、paired t test)。相関分析を行った結果、Fmθのpower値はCSIの変化量と正の相関(r=0.78)があった。Fmθ出現回数は安静条件CVI(r=0.76)およびFmθ条件CVI(r=0.82)と正の相関があった。
【考察】
Fmθが出現した手工芸活動中は、副交感神経と交感神経の両指標は、安静条件と比較して共に増加した。この結果は、手工芸に集中することによって、一定のrelaxed-concentration状態が実現されていることを示唆している。Fmθ出現回数が多いほど副交感神経活動が高いという相関は、課題への一定の集中持続状態が、リラックス状態に寄与することを示唆している。本研究の結果から、我を忘れて作業活動に集中することが、リラックス状態という鎮静効果をもつことが確認され、作業療法の有効性に関するエビデンスの一端が明らかになったと考える。