[SP4-1] 自閉スペクトラム症はコネクトパチーである:視覚認知の側面から
【背景】自閉スペクトラム症(ASD)の社会的コミュニケーション障害の根底に,知覚レベルの異常が存在する可能性が指摘されている.ASDの視知覚異常として,細部の情報処理に優れるが全体的処理や運動知覚が障害されるという行動学的特徴があり,並列的視覚路の機能異常が示唆される.視覚情報は眼(網膜)→1次視覚野(V1)→4次視覚野(V4)→下側頭葉に至る腹側路(色・形態知覚)とV1→5次視覚野(V5)→頭頂葉に至る背側路(運動知覚)により並列処理される.背側路は腹-背側路(下頭頂小葉)と背-背側路(上頭頂小葉)に分かれる.【目的】ASDの視知覚異常の脳内基盤を明らかにするために,並列的視覚路の生理学的特徴をもとに各経路の各レベルを選択的に刺激できる種々の視覚刺激を作成し,高機能ASD成人と定型発達(TD)成人において128ch高密度脳波計を用いて視覚誘発電位(VEP)を記録した.【方法と結果】実験1(V1の機能評価): 等輝度赤緑格子縞(RG, 腹側路)と8Hz低コントラスト黒白格子縞(BW, 背側路)刺激を用いた.ASD群はTD群に比べてRGのN1潜時が延長していたが,BW刺激は群間で差はなかった.ASDでは背側路V1機能は正常だが,腹側路V1(色処理系)機能が障害されていることが分かった.実験2(腹側路の機能評価): RG(V1色処理系),高コントラストBW(V1形態処理系),顔(V4)刺激を用いた.ASDではRGのN1潜時の延長,BWのN1潜時の短縮,顔刺激のP1潜時の短縮とN170潜時の延長,V1-V4伝導時間の延長を認めた.腹側路V1では色処理系の機能低下と形態処理系の機能亢進があること,V1-V4間の伝導が低下していることが分かった.V1の形態処理系の亢進は色処理系の機能低下を代償している可能性,V1からV4への顔形態情報の伝達障害の可能性が示唆された.実験3(背側路の機能評価): 放射状方向運動(OF, 腹-背側路)と水平方向運動(HO, 背-背側路)刺激を用いた.ASDではOFのN170とP200潜時が延長していたが,HOでは群間差はなかった.ASDでは腹-背側路が選択的に障害されることが分かった.実験4(視覚的注意の機能評価): ウインドミル刺激を用いて視覚性ミスマッチ陰性電位(vMMN, ボトムアップ注意)とP300(トップダウン注意)を記録した.vMMNは群間で差はなかったが,P300潜時はASDで延長していた.ASDではボトムアップ的な自動処理機構は正常だが,意識に上ってトップダウン的な処理を行う場合に異常が生じることが示された.【結論】ASDの視知覚異常は並列的視覚路や注意ネットワーク内の単一の脳領域の障害ではなく,複数の脳領域間の複雑な機能的脳内ネットワークの障害によるものと考えられた.ASDの病態は「コネクトパチー」であるという新しい疾患概念を提唱した(Yamasaki et al. Front Neurosci, 2017).