日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

シンポジウム

シンポジウム4 自閉症脳の不思議を紐解く

2020年11月26日(木) 10:00 〜 11:30 第6会場 (2F I)

座長:相原 正男(山梨大学医学部健康生活支援看護学講座)、稲垣 真澄(鳥取県立 鳥取療育園)

[SP4-2] 自閉症スペクトラム障害児におけるノイズ音知覚の脳律動解析

軍司敦子1,2 (1.横浜国立大学 教育学部, 2.国立精神・神経医療研究センター)

自閉症スペクトラム障害にみられるコミュニケーションの困難さの原因には,情動理解のつまずきや共感性の乏しさの他,知覚の特異性や情報の統合・処理における脆弱性が指摘されており,これらは近年,行動所見のみならず神経学的エビデンスに基づき診断ガイドラインにも反映されている.例えば,DSM-5では,コミュニケーションを支える認知の状態を評価する項目としてアイコンタクトや表情,身振りなど,早期診断に用いられるModified Checklist for Autism in Toddlers(M-CHAT)でも,顔への注目やアイコンタクト,視線への応答など,視覚認知とそれにともなう行動に注目した操作的診断がおこなわれる.一方で,反響言語や独特な言い回し,会話のやりとりの難しさ(DSM-5),呼びかけへの反応や理解の乏しさ(M-CHAT),韻律の奇妙さや独特な声の調子(Colemane and Gillberg, 2012),変わった声や話し方(AQ)といった,聴覚情報に基づく認知や行動の状態も評価の対象とされており,大脳の一次聴覚野や聴覚連合野における反応が非典型的であることが報告されているものの,発話などの行動面に関する神経学的エビデンスは依然として乏しい.そこで,私たちは,音聴取にともなう大脳の運動野の反応を観察することによって,発話にかかわる聞こえと運動調節の神経基盤について検討したので報告する.
自閉症スペクトラム障害(ASD)群(n=18, 8.5±2.0歳)と定型発達(TDC)群(n=18, 8.6±2.2歳)を対象に,ノイズを付した生活音を聴取する際の頭皮上脳波を記録し,θ~γ帯域における事象関連脱同期反応(Event-related desynchronization: ERD)を解析した.その結果,右側頭領域におけるα帯域のERDが,ASD群においてTDC群よりも有意に減衰した(p=<0.001).ステップワイズ法による回帰モデルにより臨床予測をおこなったところ,感度は83.3%,特異度は72.2%であった.
ノイズが付加され聞き取りにくい音の聴取の際にも,一次運動野の発声関連部位付近におけるERDが認められたことから,声以外の連続音についても声の聴取のよる運動調節と同様の現象が生じるものの,それはTDC群に顕著であり,ASD群では認められないことが示唆された.本検査は,統計解析の結果から診断目的での利用には更なる改良が必要といえるが,個々の認知の状態把握の点で,個人差の大きい臨床群であるASD児の支援を想定した活用が期待できる.