日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

シンポジウム

シンポジウム6 疾患別の術中脊髄モニタリング

2020年11月26日(木) 13:00 〜 14:30 第7会場 (2F J)

座長:今釜 史郎(名古屋大学整形外科)、谷口 愼一郎(関西医科大学整形外科)

[SP6-6] 成人脊柱変形矯正手術に対する経頭蓋電気刺激筋誘発電位の有用性-日本脊椎脊髄病学会モニタリングワーキンググループ多施設前向き研究-

後迫宏紀1, 吉田剛1, 小林和克2, 岩崎博3, 川端茂徳4, 和田簡一郎5, 高橋雅人6, 田所伸朗7, 重松英樹8, 今釜史郎3, 松山幸弘2 (1.浜松医科大学 整形外科, 2.名古屋大学, 3.和歌山県立医科大学, 4.東京医科歯科大学, 5.弘前大学, 6.杏林大学, 7.高知大学, 8.奈良県立医科大学)

【背景】術中脊髄モニタリングBr(E)-MsEP(MEP)は, 術中神経障害の可能性が高い成人脊柱変形(ASD)矯正術においては必須の手技である. 本研究の目的は, ASD矯正手術中のさまざまな手術手技におけるMEP alertを分析し, その発生率と原因を明らかにすることである.【対象と方法】国内15施設の日本脊椎脊髄病学会モニタリングワーキンググループにて, 2017-2019年度にMEPを行ったASD矯正手術患者346例(男性55例, 女性291例, 平均年齢65歳)を対象とした. アラーム pointはMEPが1肢以上でControl波形の70%以上低下とした. 障害については術直後MMTで1段階以上の麻痺出現とした. レスキュー症例は術中に波形変化あり, 介入操作後に波形が改善し術後新規麻痺がなかったものと定義した. BMI, 手術時間, 出血量, 術前筋力低下の有無, MEP導出率, レスキュー率, アラーム誘発操作, 介入の有無を検討項目とした.【結果】ASD矯正手術(MEP導出不可 6例; 導出率98%)では, True-positive(TP)7例(2.1%), レスキュー 12例(4%; レスキュー率63%), False-positive(FP)41例, False-negative 4例, True negative 276例であり, 感度64%, 特異度87%であった. 平均BMIは23.1, 平均手術時間381分, 平均出血量902ml, 術前筋力低下ありは35例(10%)であった. アラーム誘発操作は, 除圧時が2例(0.6%), スクリュー挿入時が2例(0.6%), 骨切り時が3例(0.9%), 矯正操作時が6例(1.8%), OLIF, PLIF cage挿入時が3例(0.9%), 不明が3例(0.9%)であった. 全例に介入操作を行ったが, 7例がレスキュー困難であり新規下肢麻痺が発生した。その内訳は, 除圧後に手術操作を停止した2例, 骨切り後に追加除圧操作を行った3例, アラーム原因不明例に手術操作停止した2例であった.【結論】我々は, 2010-2016年度にMEPを行ったASD矯正手術の新規麻痺発生率が5.7%, レスキュー率が61%と報告し, 2017年度以降は新規麻痺発生率(2.1%)が減少し, レスキュー率(63%)が増加しており, MEPを用いることで術中神経障害を予防できたと考えられる. 一方で, 新規麻痺発生率をさらに減少するためには, 除圧中および骨切り後のアラームに対するレスキュー操作を検討していく必要がある. また, ASD矯正手術では, 平均手術時間が6時間, 平均出血量が900mlを超え, 循環動態の変動や麻酔薬濃度の上昇によりFP発生率が高い報告がある(Ushirozako et al., JNS, 2019). 今後は麻酔科とも連携して麻酔薬や全身管理への気配りとその介入により, 術中脊髄モニタリング精度の向上を図る必要があると考える.