日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

シンポジウム

シンポジウム7 ミスマッチ陰性電位の精神科臨床応用

2020年11月26日(木) 14:40 〜 16:10 第6会場 (2F I)

座長:志賀 哲也(福島県立医科大学神経精神医学講座)、住吉 太幹(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 児童・予防精神医学研究部)

[SP7-3] 精神病性障害におけるバイオマーカーとしてのミスマッチ陰性電位の役割

樋口悠子1,2,3, 立野貴大1,2, 中島英1,2, 水上祐子1, 西山志満子1,4, 高橋努1,2, 住吉太幹3, 鈴木道雄1,2 (1.富山大学 学術研究部医学系 神経精神医学講座, 2.富山大学 アイドリング脳科学研究センター, 3.国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 児童・予防精神医学研究部, 4.富山大学 学術研究部 教育研究推進系 保健管理センター)

At-risk mental state(ARMS)は、操作的な診断基準により定義された統合失調症などの精神病性障害の発症の危険が高い状態を指す。ARMS でみられる精神病症状は軽微かつ非特異的であり、将来精神病を発症する割合は30%(Fusar-Poli, et al.,2012, 2016)程度とされ、更に精神病性障害を発症しなくとも後の役割機能・社会機能が不良であり、何らかの精神科的問題を有する割合が高い(Carrion et al., 2013, Fusar-Poli et al., 2020)。ARMSや精神病性障害の患者を早期に診断し、早期の段階から適切な支援を行うことは患者の機能的転帰を改善するとされ(Yung et al., 2011, McGorry et al., 2013, Ito et al, 2015)、更には診断的転帰の改善、すなわち精神病の発症予防(Schumidt et al., 2015)の可能性があることから、早期診断のためのバイオマーカーを発見する事の臨床的意義は高い。我々の施設においても専門外来(心のリスク外来)において脳画像、血液データ、神経生理学的検査(脳波、嗅覚)など様々な生物学的指標を用いて診断的転帰、機能的転帰双方の観点から客観的な指標の開発を継続して行っている。これまで我々は脳波を用いて測定される事象関連電位(event related potential;ERP)としてP300およびミスマッチ陰性電位(mismatch negativity;MMN)を用いてそのバイオマーカーとしての有用性について調査を続けてきた。まず、持続長ミスマッチ陰性電位(duration MMN; dMMN)を用いた研究にて後に精神病に移行した被験者(ARMS-P)はベースライン時点でdMMNが低振幅であったことから、dMMNが統合失調症発症のバイオマーカーである可能性について見出した(Higuchi et al., 2013, 2014)。本所見は本研究を含んだメタ解析(Bodatsch et al., 2015, Erickson et al., 2016)においても確認されている。またdMMN を縦断的に検討したところ、39名のARMS症例のうち、11例のARMS-Pの振幅がベースライン時点で低値あり、更に経過を追跡できた7例については精神病発症前における測定値と発症後の測定値を比較するとdMMN振幅が有意に低下していた。この所見は精神病性障害に移行しなかった被験者(ARMS-NP)および健常コントロールにおいては見られなかったことから、dMMN振幅の経時的減少は精神病バイオマーカーとして有用である可能性が示唆された(投稿中)。MMNは脳波を用いて非侵襲的かつ簡便に測定出来、薬剤の影響を受けにくいなど安定性が高いこと、他の神経生理学的検査・認知機能検査よりも統合失調症素因を反映しやすい(Light et al., 2012)ことから、統合失調症やARMS 研究への有用性と今後の臨床応用への可能性が期待される。