日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

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シンポジウム

シンポジウム8 こんなに使えるF波:リハビリテーション医学の視点、神経内科学の視点

2020年11月26日(木) 14:40 〜 16:10 第7会場 (2F J)

座長:小森 哲夫(国立病院機構箱根病院 神経筋・難病医療センター)、原 元彦(帝京大学溝口病院 リハビリテーション科)

[SP8-1] F波のリハビリテーション医療への応用

松元秀次 (了徳寺大学 健康科学部 医学教育センター)

運動神経に最大上刺激(M波の最大反応を得る以上の強さ)を加えると、支配筋から長潜時反応であるF波が導出される。1950年にMagladeryとMcDougalによって最初に紹介されたF波は、彼らが足内在筋(foot muscle)から記録したためF波と呼ばれるが、現在では全身のほとんどの神経から記録されることが分かっている。F波は、知覚神経線維を介在せず、運動神経線維の逆行性インパルスにより脊髄前角運動ニューロンの再発火を起こすことで、順行性インパルスを生じた結果もたらされると考えられている。またF波は、反応の不安定さや刺激の強さから容易な検査とは言い難いが、神経根や運動神経の近位部の伝導を調べる検査としてこれまで有用性が高いとされてきた。リハビリテーション医療の分野においては、F波は運動ニューロンの興奮性の指標の一つとしても利用できる(脊髄前角細胞の興奮性)。痙性麻痺では、F波振幅やF/M振幅比、出現頻度、持続時間が大きくなることで知られる。痙縮は、最も難渋するリハビリテーション阻害因子のひとつであることから、痙縮評価および治療効果判定法としてF波は有用である。筆者らは、脳卒中や脊髄損傷の患者を対象にF波を測定し、痙性麻痺に合致してF波振幅やF/M振幅比、出現頻度、持続時間が大きくなっていることを確認した。また、リハビリテーション治療としての温熱療法、痙性筋持続伸張法、装具療法、振動刺激療法、電気刺激療法、経頭蓋磁気刺激を行うことで、F波のパラメータが減少すること、すなわち治療効果(抗痙縮効果)があることを報告した。たとえば温熱療法を取り上げると、41℃、10分間の全身浴はF波振幅とF/M振幅比を約40%減少させ、41℃、15分間の部分浴(足浴)はF波振幅とF/M振幅比を約20%減少させることが分かった。最近の研究テーマは、運動イメージ(実際の運動は行わず脳内で運動イメージを反復する)課題で、リハビリテーション医療に今後有効な治療手段となりえると考えている。身体制限がある場合に時間や場所に関係なく実施できる利点がある。手指把持や手指タッピングの運動イメージを行うことで、F波振幅やF/M振幅比、出現頻度、持続時間が維持できることが確認された。適した運動イメージ課題についての検討は必要だが、脊髄運動ニューロンの興奮性の維持または増大に運動イメージが活用できる可能性が示唆された。