[SP8-4] F波と運動単位の解析でわかる神経筋疾患の病態
F波は電気刺激によって記録できる数個の運動単位電位で構成される複合筋活動電位である。刺激のたびに変化が生じることが特徴であるが、臨床検査では出現頻度、F波潜時、chronodispersionが広く評価の指標とし、末梢神経の伝導性、脊髄運動ニューロンの興奮性の評価に用いられている。F波は脊髄前角の運動ニューロンプールの運動単位数を反映するため、運動ニューロン病など運動単位数が減少する神経筋疾患の診断にも有用である。運動単位数が減少する場合には、複合筋活動電位としての波形の多様性がなくなり、反復F波(repeater F波)を多く認めるようになる。この反復F波は運動ニューロンの変性や末梢神経軸索数の減少で認められるが、手根管症候群などの圧迫性ニューロパチーにおいても高頻度に認められる。運動単位数の減少が進行する筋萎縮性側索硬化症など運動ニューロン疾患においては重要な指標となる。一方、頚椎症性脊髄症など脊髄運動ニューロンに対する中枢からの抑制に何らかの障害が生じていると考えられる症例においても反復F波に似た波形が見られることがあるがため注意が必要である。この場合はF波の潜時が揃って見えるchronodispersionの短縮によって反復F波様の波形となるが、これは脊髄前角細胞における興奮の同期性が高まった可能性を考えられる。高度の神経再支配をきたした症例においては、F波出現頻度の上昇と記録した全F波における反復F波の割合(反復F波占拠率)が高いことが特徴となる。また、1つの運動単位の支配領域が大きいほどF波の振幅は大きくなる。しかし、神経再支配よりも下位運動ニューロンの変性が優位に進行するため、筋萎縮が著しく進行する筋萎縮性側索硬化症の場合には、高い反復F波占拠率を維持したまま、やがてF波出現頻度が経時的に低下していくことが特徴である。このようにF波は限られた運動単位によって構成される複合筋活動電位であることを意識しながら評価・解析を行うことで神経筋疾患における病態が見えてくる。