[SS1-3] 反復単相性4連発磁気刺激法(QPS)の臨床応用
非侵襲的脳刺激とは一般的に、経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation : TMS)や経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation:tDCS)を指すことが多い。これらの手法を用い、頭皮上から刺激を行い大脳皮質の興奮性を変化させ,脳可塑性を引き起こし機能回復に結びつけるニューロモジュレーションがリハビリテーション分野において注目を集めている。経頭蓋磁気刺激に関しては、反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)が臨床応用されるようになって久しい。rTMSとは刺激強度,刺激頻度,刺激回数を変化させ反復して行うことによって大脳皮質の興奮性を変化させる手法である。単相性の磁気刺激を一定間隔で4連発を5秒ごとに30分間与える反復4連発磁気刺激法(QPS:Quadripulse Stimulation)は、より強力にLTP(Long-Term Potentiation)/LTD(Long-Term Depression)様の変化を誘導できる刺激法として浸透してきている。具体的には、運動野上のQPSの前後で単発のTMSによる運動誘発電位(MEP)の振幅を比較すると,QPSの刺激間隔が1.5~10msと短い場合には刺激後にMEP振幅は大きくなり,30~100msと長い場合には振幅は小さくなる。その効果は刺激後60分以上持続することが知られている。QPSのその強力な神経可塑性誘導を治療として用いる試みとして、Shindoらは脳卒中片麻痺患者に対する使用効果を報告している。2例の慢性期脳卒中患者において、10日間のQPSとリハビリテーションを行い、運動機能改善を認めた(Shindo et al. 2019)。今後、このような応用がよりlarge sampleで行われることが期待される。また、神経疾患では、QPSへの反応性を見る研究結果が報告されている。パーキンソン病患者においては、早期においてもQPSはM 1にLTP様作用もLTD様作用も誘発しなかったが、L-Dopaを投与することによる運動症状の改善と並行して、神経可塑性の欠如は正常化した(Enomoto et al. 2012)。ミオクローヌスてんかんでは、5ms間隔のみではなく50ms間隔の運動野上のQPSによってもgiant SEPの振幅がさらに増大し、感覚野の抑圧を起こすような可塑性を誘導できないことが示されている.(Hamada et al. 2010; Nakatani-Enomoto et al. 2016)。 このようにQPSへの反応は疾患により異なり、それを治療戦略の検討に用いられる可能性が今後広がってくると考えられる。