50th Memorial Annual Meeting of Japanese Society of Clinical Neurophysiology (JSCN)

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サテライトシンポジウム

サテライトシンポジウム2 小児脳機能研究会

Thu. Nov 26, 2020 6:30 PM - 8:30 PM 第3会場 (2F B-2)

座長:安原 昭博(安原こどもクリニック)、荒木 敦(中野小児病院)

[SS2-3] MRSの小児神経疾患への臨床適用

星野廣樹, 金村英秋 (東邦大学医療センター佐倉病院 小児科)

近年、MRIと同様の核磁気共鳴現象を用いたMRS(Magnetic resonance spectroscopy)により、非侵襲的にMRIで設定した関心領域の神経科学物質を測定し、局所的な分子情報を得ることが可能となった。様々な中枢神経領域への臨床応用が試みられており、新生児低酸素性虚血性脳症の予後予測、脳クレアチン欠乏症候群やメープルシロップ尿症などの神経代謝性疾患の診断と病勢評価、急性脳症の病勢や予後評価に寄与している。一方、SLC19A3遺伝子はチアミントラスポーターをコードしており、SLC19A3関連疾患は、ビオチン-チアミン大量療法によって症状が緩和する可能性が知られている。そのため、早期診断が重要な疾患である。SLC19A3関連疾患は発症年齢ごとに表現型が異なり、乳児期発症はLeigh脳症、幼児期発症はビオチン-チアミン反応性大脳基底核疾患、成人期発症はWernicke脳症として発症することが多い。今回、SLC19A3遺伝子変異を有したLeigh脳症に対するビタミンカクテル療法の経験を交えて、MRSのスクリーニング検査および治療モニタリングとしての有用性について検討した。
 症例は2歳男児。生後6か月時、未頸定、ピクつきを主訴に当院受診した。血清乳酸/ピルビン酸比の上昇、EEGではhypsarrthythmia、頭部MRIでは大脳基底核、視床、小脳に両側性病変、頭部MRSでは大脳基底核、白質に乳酸ピークの増大を認めた。Leigh脳症に併発したWest症候群と診断し、Leigh脳症に対してビタミンカクテル療法(ビオチン 0.5mg/kg/day、コエンザイムQ10 5mg/kg/day、チアミン 10mg/kg/day、ビタミンC 100mg/kg/day、ビタミンE 10mg/kg/day、L-カルニチン 30mg/kg/day)、West症候群に対してACTH療法を開始した。発作は速やかに消失し、hypsarrthythmiaも改善した。2歳時のMRSでは治療前に認められていた大脳基底核、白質における乳酸ピークの消失を両者で認めた。後に、SLC19A3遺伝子変異が同定され、ビオチン、チアミンの両者を各々SLC19A3関連疾患に対する推奨量まで増量した。
 Leigh脳症の原因は多岐に渡るが、遺伝子解析された1-12%にSLC19A3遺伝子変異が同定されている。SLC19A3遺伝子変異を原因とするLeigh脳症は、ビオチン-チアミン大量療法により治療できる可能性があり、予後の改善に早期診断が重要である。そして、早期診断の観点からは、MRSは遺伝子検査よりも臨床的有用性が高いと言える。本症例は、SLC19A3関連Leigh脳症に対するビタミンカクテル療法が、MRSの乳酸ピークを正常化させる可能性を示唆している。スクリーニング検査としてのMRSで乳酸ピークが確認されたLeigh脳症に対して、ビタミンカクテル療法開始後に乳酸ピークをモニタリングすることで、より早期にSLC19A3遺伝子変異を疑い、病勢を評価し、より適切な治療へと繋げられる可能性が推察された。ビタミンカクテル療法開始後、どの程度の期間でMRSの乳酸ピークが正常化するかについては、今後の検討課題である。