日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

サテライトシンポジウム

サテライトシンポジウム2 小児脳機能研究会

2020年11月26日(木) 18:30 〜 20:30 第3会場 (2F B-2)

座長:安原 昭博(安原こどもクリニック)、荒木 敦(中野小児病院)

[SS2-4] てんかん性脳症の脳磁図解析

山本啓之1, 夏目淳1,2 (1.名古屋大学大学院医学系研究科 小児科, 2.名古屋大学大学院医学系研究科 障害児(者)医療学寄附講座)

【背景および目的】てんかん性脳症はてんかん性活動が認知・行動障害を引き起こす状態で、West症候群、徐波睡眠期持続性棘徐波(CSWS)を示すてんかん性脳症などが知られている。脳磁図の解析では単一の磁場源を想定したsingle dipole法により等価電流双極子(ECD)を求める方法が用いられてきた。しかし、てんかん性脳症でみられる多焦点性、広汎な脳波異常での有用性は不明である。てんかん性脳症の異常脳波の発生源や脳機能へ与える影響を評価することを目的とした。【方法】名古屋大学医学部附属病院で診療したてんかん性脳症症例を対象とした。ECD推定および頭部MRIを2500~3000の部位にわけ、各部位において磁場変化が有意に高い部位を経時的に表示する方法であるdSPM解析を行った。【結果】対象は新規発症のWest症候群14例、Landau-Kleffner症候群(LKS)1例であった。West症候群の初発時の年齢は0歳4か月から2歳0か月で中央値は0歳6か月、男児7、女児7例であった。3例は構造的原因を有するWest症候群であり、その基礎疾患は脳腫瘍、結節性硬化症、皮質形成異常であった。全例で発症時に間欠的なhypsarrhythmiaを呈していた。右側頭葉内側の脳腫瘍(後の病理により神経膠腫と診断)に伴う症候性West症候群の1例では、脳波上は明らかな局在を認めなかったが、間欠的なhyprsarrhythmiaの起始部においてECD推定を行ったところECDは腫瘍部に集積した。さらにdSPM解析を行うと腫瘍周囲から高い磁場変化が発生し、前頭葉へと拡延することが確認された。通常脳波は視察的には全般化および多焦点の所見であったが、腫瘍切除により、発作は消失し停滞していた発達が改善した。他の13例においてはsingle dipole法、dSPM法双方で特異な所見は得られなかった。LKSの症例は右利きの4歳男児で、けいれん発作で発症し脳波上の睡眠時の棘徐波の高頻度化、広汎化に伴い言語によるコミュニケーションができなくなった。脳波では右中心、側頭部優位に広汎化し持続する棘徐波を認めた。脳磁図では各棘波の起始部では右側頭葉にECDが集積したが、頂点では左側頭葉に集積した。【考察】hypsarrhythmiaは視察的には焦点診断が困難であることが多い。脳腫瘍の一例においては、脳腫瘍が発作焦点となり突発波が不規則に拡延していると考えられ、そのような症例では特に起始部を検討することにより焦点診断ができる可能性が示唆された。特に構造的原因を有するWest症候群において、積極的に焦点診断し治療を行うことで発作、発達予後が改善すること可能性がある。LKSの症例では脳波の視察上の判読では言語有意半球と推定される左半球とは対側が優位であった。棘波の起始部と頂点を分離して解析することで、頂点では左側頭葉で突発波の活動があることがわかり、言語機能へ影響を与えていると推測した。脳磁図は視察的に多焦点、不規則な突発波でも焦点診断、機能解析に有用である症例があると考えられた。