日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

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ワークショップ

ワークショップ2 拡大するてんかんの遠隔医療

2020年11月26日(木) 14:40 〜 16:10 第2会場 (2F B-1)

座長:中里 信和(東北大学 大学院医学系研究科 てんかん学分野)、榎 日出夫(聖隷浜松病院てんかんセンター)

[WS2-1] てんかん診療はオンライン・ファーストか?

中里信和 (東北大学 大学院医学系研究科 てんかん学分野)

てんかん診療はオンライン医療に適している。長期の抗てんかん処方はオンラインか否かを問わず、専門医による病歴聴取を必須にする制度があっても良い。私が近著「もっとねころんで読めるてんかん診療」において、近未来を想像したエピローグの一部を省略して、以下、引用する。

2018年当時、遠隔医療への反対意見は根強く、厚生労働省は厳しい条件をつけていた。たとえば、初診では旧来どおりの対面を必須条件とし、オンラインでの初診は認められていなかった。再診の場合でも、すべてオンラインとはいかず、3ヶ月に1回は対面診察が義務付けられていた。オンライン診療の流れが大きく加速されたきっかけは、2020年初頭に始まった新型コロナウイルスのパンデミックである。海外では、真っ先に対面診療を禁止し、オンライン診療こそが診療の標準になっていたこともあって、厚生労働省もオンライン診療の制限を、時限つきながら解除する通達を出した。すなわち、1)初診からオンライン診療でも構わない、2)再診も3ヶ月に1回の対面を必須とはしない、3)通信機器のセキュリティについては医師の責任のもと何を使っても構わない、というもので、まさに「何でもアリ」の条件となった。ある評論家は「コロナが黒船になったようだ」と語った。コロナ禍前の2019年、T大学のN医師は「てんかんオンラインセカンドオピニオン」を開始していた。「てんかん専門医の地方における不足を解消する必要がある」、「てんかん患者がなるべく早い段階で専門医の診療を受けるべきである」というのがN医師派の持論であった。「てんかん診療はオンライン向きである。むしろオンライン・ファーストでも良い」とも発言し、学会や病院の仲間には「オンライン過激派」とも揶揄されていた。オンライン診療が普及する以前の医療体制は、基本的には地理的な行政区分が基本単位であった。N医師の発言は、地理的制限を撤廃し、医療の品質によって新しい診療ネットワークを構築せよ、という理論であったため、地元に根付いた診療を重視する医師からは猛反発を受けた。N医師は彼らに対しての説得を続けた。「てんかん診療では病歴聴取が何より重要です。対面で非専門医が診療するより、専門医がオンラインで診察する方が診断精度は上がります。いったん診断がつき治療方針が決まれば、あとは地元の先生に診療を継続してもらうことができますから、地元のかかりつけ医の役割はきわめて大きいのです」という発言により、その後、反対意見は徐々に減っていった。こうした専門の臨床検査技師と専門医は全国規模での登録・当番制となり、日本全国、どこの病院の症例であっても、皆で日時を分担して助言を行う制度に変わったのである。以前のように「当院には脳波計はあるが、脳波を読める医師がいない」という問題は完全に消滅した。