[WS2-4] てんかん診療における遠隔外来と包括的入院精査の相補的利用
てんかん診断では問診の重要度が高いため、遠隔外来との親和性は高いといえる。しかしながら対面診療のみでも正確な診断に至らない症例が一定数あることから、包括的入院精査との組み合わせが重要と思われる。そこで本研究では、テレビ会議システムを用いた遠隔てんかん外来と包括的入院精査の相補的利用の有用性を検討した。対象は2013年5月から2019年6月までの6年1ヶ月の間に、1)気仙沼市立病院脳神経外科外来(気仙沼外来)を受診し、その後2)てんかん専門医によるてんかん遠隔外来を受診した32名である。うち10名は、最終的に3)東北大学病院てんかん科で入院精査を受けている。本研究では1)から3)のプロセス間で、てんかんが否定される、てんかんと診断される、さらにはてんかん病型が特定される,など新たに「診断精度の向上」が得られたかどうかを評価した。評価の基準となる「最終診断」は3)入院精査がなされていない場合は2)遠隔外来の診断を、3)入院精査がなされた場合にはその診断を,それぞれ「最終診断」とした。つまり、気仙沼外来の診断が遠隔外来で変更されても、これが入院精査の診断に反する場合は「診断精度の向上」はなし,となる。32例中,23例(72%)において遠隔外来で診断精度が向上した。具体的には,てんかんか否かの診断確定が9例,てんかんのうち焦点性か全般性か確定されたものが9例,焦点てんかんのうち部位診断が確定したのが5例であった。遠隔外来で診断精度が向上した23例中,5例で入院精査が行われ,3例でさらに診断精度が向上した。具体的には、発作間欠時に全般性棘波を記録し特発性全般てんかんの診断に至った1例と,発作間欠時または発作時の脳波異常がないことを確認し心因性非てんかん発作と診断した各1例である。残る2例は、遠隔外来ではてんかんと考えられたものの、入院精査において発作間欠時のてんかん性異常が記録されず、発作も記録されなかったため、診断精度の向上なしと評価された。遠隔外来で診断精度が向上しなかった9例中,5例で入院精査が行われ全例において遠隔外来の診断が入院精査で変更された。内訳は長時間ビデオ脳波によって発作が記録された2例や, MRI病変やFDG-PETの集積低下が神経放射線医との検討であらたに判明した各1例,さらにHbA1cの異常から糖尿病とこれに伴う起立性低血圧と診断された1例である。なお残り4例においては、気仙沼外来受診以前に小児神経専門医によるてんかん診断が確定しており、遠隔外来では診断には変化なしと判断し、かつ入院精査は行われなかった。以上より、遠隔てんかん外来は専門医のいない地域における有用性は明らかであるが、必要に応じて入院精査と組み合わせることにより、その威力がより強く発揮されると考えられた。