50th Memorial Annual Meeting of Japanese Society of Clinical Neurophysiology (JSCN)

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ワークショップ

ワークショップ3 問題症例の神経筋診断

Thu. Nov 26, 2020 4:30 PM - 6:00 PM 第7会場 (2F J)

座長:有村 公良(大勝病院)、畑中 裕己(帝京大学 神経内科)

[WS3-5] 17年の経過で上肢優位の右上下肢筋力低下の進行を来した23歳女性の1例

北國秀治 (千葉大学医学部附属病院 脳神経内科)

【背景】非対称性の臨床症状を呈する慢性進行性のニューロパチーの主な鑑別疾患として、非典型的慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)の1病型であるMADSAM、MMN等が挙げられる。両者で治療方針が異なるため、注意深い鑑別が必要である。【症例】23歳女性。主訴は右腕・脚の力の入りにくさ(上肢優位)、寒い時の右肘先のしびれ感。既往・家族歴に特記事項なし。出生、発育は正常。7歳の頃から、走る時に右腕は振らずに左腕だけを振って走るようになった。また、右手でペットボトルの蓋が開けられなかった。中学生の頃から洗髪の際に右腕の上げづらさを自覚した。16歳頃から階段を登るのがつらくなった。21歳の美容師専門学校時代より洗髪時に右上肢だけでお客の頭を支えることが徐々に難しくなり、22歳頃より寒冷時に右前腕以遠にピリピリとしたしびれ感が出現した。X-1年6月(22歳時)に前医整形外科を受診し、頸椎MRIを施行されたが特に異常は指摘されず、7月に前医脳神経内科へ紹介され、以降外来で経過をみられていた。X年4月21日精査目的に当院脳神経内科へ紹介された。当科初診時の神経学的所見として、左眼瞼下垂を認めるもその他脳神経異常なし。右前腕・右手内筋が萎縮。頚部前屈・右三角筋・右上腕二頭筋・右手関節伸展・右手指伸展・右小指外転筋・右大腿屈筋群 MMT 4-4+と低下、その他筋力低下なし。握力 右9.5/左15 kg。四肢腱反射は低下-消失。両側肘関節以遠に痛覚鈍麻を認め、振動覚は右優位に四肢で低下。脊椎側弯・凹足なし。立位・歩行は正常、Romberg徴候は陰性であった。一般検査所見は特記事項無し。膠原病関連の自己抗体陰性。抗ガングリオシド抗体陰性。髄液細胞数・蛋白増加なし。右上下肢の運動神経伝導検査では、正中・尺骨・腓骨・脛骨神経とも、伝導速度遅延、F波潜時の延長を認めたが、いずれも脱髄域ではなかった。伝導ブロックは認めなかった。感覚神経伝導検査では正中・尺骨・腓腹神経とも正常所見であった。右正中神経刺激による感覚誘発電位では、Erb点電位、N20の潜時延長、N9、11、13の電位の消失を認めた。MR neurographyでは右側優位に神経根~腕神経叢のびまん性でやや辺縁不整な神経肥厚を、脳神経(V2、V3、VII、IX、X)の肥厚を認めた。電気生理学的検査からは運動及び感覚神経の伝導速度遅延の存在が、画像検査からは脱髄疾患の存在が疑われた。以上より、MADSAMの可能性を考え、デキサメタゾンパルス治療を導入し、右下肢筋力低下が改善した。【考察】通常の神経伝導検査では感覚神経障害を示唆する所見が認められず、MADSAMとMMNとの鑑別が問題となった。両者の鑑別のためSEPを追加し、腕神経叢~神経根での障害を示唆する所見を認めMADSAM型CIDPと診断することができた。