[WS4-1] パーキンソン病患者に対する我々の外科的治療方針の変遷:低体重、高齢者に対する治療方針
パーキンソン病(PD)に対する視床下核脳深部刺激術(STN-DBS)は抗PD薬(抗パ薬)も減量しうる治療手段である。だが高齢者や精神症状を有する患者では認知機能障害や精神症状の増悪も懸念される。また抗パ薬の減量は運動症状以外の増悪やドパミンアゴニスト離脱症候群などにも注意が必要である。我々はこれまで、特に低体重の患者ではSTN-DBS術後の薬剤や刺激条件の調整に苦慮する場合があることを報告してきた。最近では,我々は高齢者や低体重のPD患者に対してはSTN-DBSではなくGPi-DBSを選択している。また、振戦を主症状とする患者にはVim-DBSを積極的に用いて減薬を図る,副作用が懸念されるSTN-DBSの患者にはdirectional leadを用いるなどの工夫も行ってきた。本発表ではそうした我々の現在の治療方針の結果を報告する。【対象と方法】対象はSTNあるいはGPi-DBS手術を受けたPD患者32名およびVim-DBSのPD患者4名。前者の患者軍のうちBMIが20未満の患者は9名で,4名がSTN-DBS,5名がGPi-DBSを受けた。手術時の体重,身長,BMI,年齢,術前の抗パ薬の内服量,減薬量,術前のUPDRS,罹病期間および,術後管理の困難さの指標として退院後3か月間の外来通院回数を検討した。対照として同時期に他部位へのDBSを行った、本態性振戦,ジストニアの患者21名も検討した。【結果】STN-DBS術後L-DOPAは300-350mg/日に(術前の60-80%)減薬された。GPi-DBS後もL-DOPAは50-400mg程度減薬された。 STN-DBSの術後3か月間の通院回数はL-DOPA投与量とは相関せず,体重,BMIと負の相関を認めた。退院後3ヶ月間の通院回数はBMI20以上のSTN-DBS患者の3.6回/3か月に対し,20未満のSTN-DBSは7.0回,BMI20未満のGPi-DBS群では2.8回であった。GPi-DBS患者もdyskinesiaの著減に加え,off時間の短縮,歩行の改善が得られ,息苦しさなどの訴えも軽減した。振戦を主訴とするPD患者全例で振戦を抑制し、5年以上経過しても振戦は抑制されジスキネジアは生じていない。【考察】低体重や高齢のPD患者に対しては,投薬の調整が容易で認知機能障害の悪化が少ないGPi-DBSは有効な治療手段である。GPi-DBSやVim-DBSでも症状の改善に加え多少の減薬効果はある。STN-DBSの適応を外れる例であってもtargetや刺激装置の選択により、DBSの効果が期待できる。