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メインシンポジウム
メインシンポジウム 1 労働者への金属曝露とその健康影響 -古くて新しい課題-
Wed. May 10, 2023 1:30 PM - 3:30 PM 第1会場 (ライトキューブ宇都宮 1F 大ホール東)
座長: 堀口 兵剛(北里大学医学部衛生学), 小椋 康光(千葉大学大学院薬学研究院予防薬学研究室)
【医(専)、看】
共催:日本微量元素学会
古代より人類は鉱物を採掘・精錬・加工して使用しており、その労働に従事する人々にはじん肺とともにそれぞれの金属特有の健康障害が発生していた。吉野貞尚・吉野章司著の「じん肺─歴史と医学─」によれば、北宋の学者・詩人であった孔平仲の著書「孔氏談苑」の中で「金銀工芸で鍍金をするため、水銀にさらされて頭と首がふるえる」という水銀中毒を思わせる記述があるという。また、有名なアグリコラ著の「金属の書」(1556年)やパラケルススの「鉱夫病とその他の鉱山病について」(1567年)には、鉱夫の珪肺だけでなく、金属の精錬等による多彩な健康障害や水銀中毒などについて記述がある。ラマッツィーニの「働く人々の病気」(1700年)にも、「鍍金屋の病気」としてアマルガムの加熱により水銀蒸気を吸入して神経症状や口腔内潰瘍を発症した作業者について、また「画家の病気」として絵筆をなめて鉱物性顔料に曝露されて鉛中毒様の症候を呈した画家についての記述がある。
近代産業文明が発達して上記の水銀や鉛に加えてヒ素、カドミウム、クロム等の多様な金属(類)も労働現場で扱われるようになり、労働者でのそれぞれの特有の健康障害の発生が社会問題となった。しかし、金属中毒の研究が進んで労働現場での管理体制が整えられた結果、今日では金属による健康障害の発生はほとんど見られなくなった。
ところが、近年の産業高度化により新たな金属の健康影響の問題が発生してきた。ナノテクノロジーにより製造される粒子径100ナノメートル以下のナノ粒子は、同じ金属組成でも表面積が大きいために生体との反応が強くなり、呼吸器の奥深くまで運ばれるために有害性が高くなる懸念がある。また、タッチパネルや液晶画面に使用されるインジウムは、2001年のインジウム・スズ酸化物を取り扱っていた28歳の男性の間質性肺炎による死亡例以来その有害性が認識・研究され、厚労省により「健康障害防止に関する技術指針」が定められた。
すわなち、労働者への金属曝露の健康影響は古くて新しい課題であり、労働衛生の原点である。「安くして危うきを忘れず、存して亡ぶを忘れず、治まりて乱るるを忘れず。」(易経)と言うように、産業現場での金属中毒は「無くなった」わけではなく、日常の弛まぬ人為的努力の継続により「発生しないようにしている」のであり、今後も決して油断なく研究を継続し、労働現場での管理体制を維持していく必要がある。
本シンポジウムでは、各シンポジストの先生方に、「古典的な金属中毒」の例として水銀(吉田 稔氏)と鉛(小野 晃氏)について、また先端産業分野における新しい金属の健康影響の例として酸化チタンナノ粒子(笠井辰也氏)とインジウム化合物(田中昭代氏)について御講演いただく。本シンポジウムにより古くて新しい労働現場での金属の健康影響の重要性について認識を新たにする機会を提供できれば幸いである。
吉田 稔1 (1.東京純心大学)
小野 晃1 (1.古河電池株式会社 ESH本部 環境推進部)
笠井 辰也1 (1.独立行政法人労働者健康安全機構 日本バイオアッセイ研究センター)
田中 昭代1 (1.九州大学大学院医学研究院環境医学分野)