第96回日本産業衛生学会

セッション情報

シンポジウム

シンポジウム 3 疲労リスク管理システムの他業種への水平展開に向けて

2023年5月10日(水) 18:00 〜 19:30 第2会場 (ライトキューブ宇都宮 3F 中ホール東)

座長: 久保 智英(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所), 榎原 毅(産業医科大学産業生態科学研究所人間工学研究室)

【医(専)、看】

産業疲労研究会では労働者の疲労回復におけるオフの量的側面を「勤務間インターバル」、質的側面を「つながらない権利」という位置づけで、休むことに起点を置いた疲労対策の重要性を2014年のシンポジウムを皮切りに他に先駆けてこれまで発信してきた。しかし、これらはあくまで規則であり、それが個々の職場の実態を踏まえずに杓子定規に導入されれば絵に描いた餅になってしまうことは言うまでもない。くわえて、新型コロナの影響により、これまで我々が経験したことのない速さで暮らし方、働き方が変化している。それにより、ギグワークやリモートワークといった時間と場所に縛られない新しい働き方が急速に広まっているが、そのような働き方をする人々の健康や安全を守るための規則の構築には多くの時間と労力がかかる。

今回のシンポジウムでは、それらの新しい働き方による様々な労働安全衛生状の課題を念頭に、航空パイロットにおいてわが国でも2017年に義務化された「疲労リスク管理システム(Fatigue Risk Management System;FRMS)」に着目して、今後の新しい疲労対策として産業保健職に向けて紹介したい。FRMSは法規準拠型であった従来の運航業界の安全リスク対策に対して、様々な立場で協議してルールを決める自主対応型の対策に重きを置いている点に特徴がある。

本シンポジウムでは、航空パイロットの立場から満下善紀氏にFRMSの実態と課題を紹介していただき、トラックドライバーの疲労研究に従事してきた松元俊氏には実際のトラックドライバーの疲労調査を踏まえて運輸業でのFRMS導入の必要性を述べていただく。そして座長でもある久保からは個々の職場の特性に合わせた職場の疲労測定から対策実施を行うための手法として「職場の疲労カウンセリング」を活用した介入調査事例の紹介を行う。それらを軸として、自主対応型の疲労対策であるFRSMの他業種への水平展開について本シンポジウムでは議論したい。それにより、今後のわが国の労働者の生活の質や健康、安全の向上に貢献できる議論へとつながることを期待したい。