第96回日本産業衛生学会

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シンポジウム

シンポジウム 14 模擬裁判(日本産業保健法学会連携企画):攻撃的性格、飲酒癖、身体疾患、在宅労働への復職

Fri. May 12, 2023 9:00 AM - 11:00 AM 第2会場 (ライトキューブ宇都宮 3F 中ホール東)

座長: 林 剛司(株式会社日立製作所(安衛本)(健康推)産業保健推進センタ), 倉重 公太朗(KKM法律事務所)

【医(実)、看】
共催:日本産業保健法学会

 以下の事例と論題(起案:三柴)につき、弁護士と医師が、労使の役割を演じて議論する(使用者側:岡弁護士、黒木医師。労働側:淺野弁護士、渡辺医師)。会場による評定後、各演者が本音でコメントする手順により、産業保健に関する「生きた法知識」の共有を図る。司会は林医師と倉重弁護士が務める。


 Xは、退職措置がとられた当時、50歳代の男性で、中小の精密機械メーカーのYに勤務し、SEとしてソフトウェア開発に従事していた。周囲の評価では、ややせっかちで、仕事の能力は低かった。40代後半で、妻子を交通事故で亡くし、うつ症状が現れたために精神科を受診したところ、抑うつ状態と診断された。その後アルコールの摂取量が増え(週日は日本酒4~5合/日)、健診結果でも、高血圧(158/95mmHg)、メタボ(BMI:27kg/㎡)等と数値が悪化したが、医師の指導で節酒し(週日は日本酒2~3合/日)、50歳代には健診結果も若干改善していた(血圧:140/85mmHg、BMI:25kg/㎡)。

 しかし、50歳に達して間もなく、Yの経営状態が悪化して急遽、簡単な研修を受けただけで営業部門に配置されたが全く実績を挙げられず、上司が飲み会で部下に、「あいつは使えない」、「今のうちは大変なんだ。ああいう人は要らないんだよね」、等と述べたところ、部下から本人に伝わり、飲酒量が増える(日本酒4~5合)と共に、不眠、倦怠感、イライラ等を感じ、精神科で適応障害の診断を受け、肝臓の精査等のために勧めを受けて受診した内科でバセドウ病と診断された。しかし、解雇等不利益扱いを受けることをおそれ、Yには伏せていた。

 その後、新型コロナ禍となり、YもXに在宅ワークを命じざるを得なくなり、顧客企業への遠隔技術サポート等をさせていたが、顧客に対して攻撃的な発言をして苦情が寄せられ、上司から、「君にはどういう仕事が向いてるんだろうね...」、などと言われた。その後、飲酒癖が強化し、4~5合/日を毎日摂取するようになった。生活時間帯も昼夜逆転し、定期健診では、肝機能検査で異常値(γGTP:720IU/L、AST(GOT):312IU/L、ALP(GPT):181U/Lなど)が出て、振戦もあり、内科を受診したところ、アルコール性肝炎と診断されたが、やはりYには伏せていた。定期健診結果を受け、産業医面談が実施されたが、Xはアルコールの摂取量を過少(週日は日本酒2-3合/日)に申告していた。

 3か月ほど後、私用で自動車の運転中に意識を失って事故を起こし、ろっ骨骨折、むち打ち等の傷害を負って、会社に傷病休職を命じられた。休職期間中、社長あてに上司を激しく批判する内容の手紙を送った。また、休職期間満了間際に労働組合への支援要請、労働局へのあっせん申請等を行った。傷害は回復したため、内科主治医の診断書を得て、Yに対して在宅ワークへの復職請求を行った。主治医の診断根拠は、アルコール摂取はコントロールされ、甲状腺ホルモン値も内服でコントロールできているということだった。

 そこでYは、就業規則に基づき産業医面談を指示。産業医は、(暗に精神症状の存在と再発を疑って)精神科受診を指示するも拒否されたこと、在宅ワークでは経過観察できないことも理由に挙げて不可と判定したため、休職期間満了により退職措置がとられた。

 論題:Xによる雇用契約上の地位の確認請求は認められるか