第96回日本産業衛生学会

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シンポジウム

シンポジウム 17 振り返りから前を向く産業保健へ ~災害危機をバネに産業保健の新たな展開~

Fri. May 12, 2023 9:00 AM - 11:00 AM 第3会場 (ライトキューブ宇都宮 3F 中ホール西)

座長: 福島 哲仁(福島県立医科大学医学部衛生学・予防医学講座), 千葉 敦子(青森県立保健大学健康科学部看護学科)

【医(専)、看】

2011年3月11日、三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の地震が起こり、東日本大震災が発生した。この地震は、福島第一原子力発電所事故へとつながり、福島県の復興に長く大きな影響を残している。
日本は、これまで大地震や豪雨など、度重なる自然災害に見舞われてきた。そのたびに復興が繰り返されてきたのだが、資金が乏しい中小零細企業は、単にもとに戻すだけの復興では、これから先の経営の見通しが立たないのが実情であり、復興の名のもとに従業員の健康と安全が後回しにされてしまうことも危惧される。

一方で、新型コロナウイルス感染症流行下で、この社会的災害の危機をバネに、従業員の健康と雇用を守り、さらに新たな展開を模索しようとする動きは、ポストコロナの社会が大きく変わることを予想させる。

経済産業省は、2014年度より、健康経営に係る各種顕彰制度の選定を行っており、2016年度には「健康経営優良法人認定制度」を創設した。「健康経営」とは、従業員の健康管理を経営の視点からとらえ、従業員への健康投資を行うことで、従業員の健康と安全が守られ、それがひいては生産性の向上につながるという考えに基づいている。これは経営者の視点からのとらえ方に見えるが、この健康と安全の当事者は従業員であり、従業員の視点からの健康経営の解釈も重要と考えている。これまでの度重なる災害からの復興は、経営者だけでなく、従業員も一体となって取り組まなくてはならなかったし、その苦難から立ち直り、さらに未来を切り開く前向きな取り組みには、立場を超えた新たな産業保健の視点が求められている。

近年の自然や社会的災害を機に、振り返りから前を向く新たな戦略に立脚した産業保健の姿が現れ始めている。その一端を各シンポジストから伺い、今後の発展に向けた方策と課題について討論してみたい。