第98回日本産業衛生学会

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シンポジウム

シンポジウム 9 医師の働き方改革における長時間労働医師への健康確保措置-法制化から1年、現状と課題-

Fri. May 16, 2025 1:45 PM - 3:15 PM 第3会場 (仙台国際センター 展示棟 1F 会議室3)

座長: 谷川 武(順天堂大学公衆衛生学講座), 堀江 正知(産業医科大学)

2016年の「医師の勤務実態調査」では、病院勤務医の約4割が過労死ラインとされる超年間960時間を超える時間外労働を行い、約10%が1860時間を超えている実態が明らかになりました。2019年4月施行の改正労基法では、36協定の時間外労働に上限が定められ、医師には5年間の猶予期間が与えられました。この間、医療法が改正され、2024年4月に向けて各医療機関での労務管理体制の構築などの医師の働き方改革が進められてきました。その結果、2022年の調査では、年間960時間を超える医師の割合が21%、1860時間以上は3.6%と改善が認められました。
2024年4月の改正労基法および医療法の施行により長時間労働の医師に対する追加的健康確保措置の実施が義務づけられました。これに伴い、追加的健康確保措置として行われる面接指導を適切に実施するために、面接指導実施マニュアルの改訂とともに「面接指導の進め方クイックガイド」が作成されました。面接指導を実施する医師(面接指導実施医師)には、面接指導実施医師養成講習会の修了が義務付けられ、実践トレーニングとしてロールプレイ研修も提供されています。また、追加的健康確保措置の運用実施に際して、産業保健職は重要な役割を担うことが想定されており、面接指導実施医師から連携を依頼される立場にある医療機関の産業医に対して、病院産業医向け研修会が開始されています。
追加的健康確保措置の実施が義務付けられてから1年が経過し、各医療機関では、その実践の中でノウハウが蓄積される一方、課題も浮き彫りになっていると思われます。本シンポジウムでは、働き方改革及び面接指導の実践者の声を拾い上げ、現状及び今後の方向性や産業保健職の担う役割について意見を交換します。
順天堂大学医学部公衆衛生学講座和田裕雄先生には、医師の健康確保に関して、この間に蓄積した新たなエビデンスについて、同講座亀田義人先生には面接指導の全体像と実践ついて順天堂大学での実践経験も踏まえて、面接指導の前提への理解を深める内容をお話し頂く予定です。北里大学医学部公衆衛生学講座の堤明純先生および東北大学環境・安全推進センター黒澤一先生には、長時間労働医師への面接指導に関する病院産業医の課題や工夫を共有するお話を期待しております。自治医科大学 保健センター小川真規先生には、長時間労働問題と労務と合わせた対策の重要性や産業保健スタッフの意見交換の場づくりの取り組みをお話しいただく予定です。最後に、聖路加国際病院藤川葵先生(前厚生労働省医政局医事課医師等医療従事者働き方改革推進室)には、在籍時のご経験と現状を踏まえた追加発言を頂きます。
 本シンポジウムを通じて、改めて医師の働き方改革と長時間勤務医師に対する追加的健康確保の現状と課題ならびに産業保健職の担う役割等について、知見を深める一助となれば幸いです。