第98回日本産業衛生学会

セッション情報

シンポジウム

シンポジウム 7 模擬裁判 日本産業保健法学会共同企画

2025年5月16日(金) 09:00 〜 11:00 第2会場 (仙台国際センター 展示棟 1F 会議室1+会議室2)

座長: 倉重 公太朗(KKM法律事務所), 平野井 啓一(株式会社メディカル・マジック・ジャパン)

産業衛生学会の名物企画として、毎年多くの方々にご参加いただいている模擬裁判が、今年も開催されます。メンタルヘルスの対応で難渋する事例が発生した場合、もしそれがこじれたとき、皆さんはどう対処されますか?もし訴訟に巻き込まれそうになったとき、冷静に対応することができるでしょうか?そんな架空のケースを用いて、会社側(企業側の弁護士、産業医)と労働者側(労働者側の弁護士、主治医)がそれぞれの主張をぶつけ、議論します。
 今回は新たな試みとして、相手方の医師への尋問も追加されました。企業側弁護士から主治医へ、そして労働者側弁護士から産業医へ、本物の法廷さながらに鋭い質問が投げかけられます。
 どちらの主張がより正しいのか?もちろん、それも重要ですが、そもそも訴訟にならないためには何をしておけば良かったのでしょうか?また、「正しさ」のみを追求しても上手くいかないこともあります。そんなとき、双方の利害だけでなく、心情的な側面にも配慮し、納得感を醸成するためには何が必要だったのでしょうか?医学的な正しさだけではなく、人の心も考慮した対応を学ぶことができます。複雑化するメンタルヘルス事例に直面したとき、このシンポジウムの内容がその解決の一助となることを祈ります。
一模擬裁判の有用性一
産業医や産業保健職(産業保健専門職という)は一般医学を修得後に、その応用学として産業保健を実践しています。しかし実際に事例に接してみると、事例の背景や経緯、要素を分析する際には医学は極めて有効ですが、登場人物たちの納得を得ながら事例を解決するためには医学には限界があることを感じます。一方で、社会に通底する法概念を用いて節度や寛容、倫理、規範を共有することができれば、医学的事項を含めたうえで復職を議論することができます。模擬裁判では、両者がそれぞれの立場で引用する根拠事実や根拠法令、立論の構成や正確性などを吟味する技能を訓練することができます。それは、筋道を立てて考え、整理し、自分で理論構築をする実践的な教育となります。模擬裁判は教育ツールとして非常に高い価値があります。
一職場復帰可否の判断基準一
「<改訂>心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(2020.7.9)」より。
職場復帰可否については、個々のケースに応じて総合的な判断が必要です。労働者の業務遂行能力が完全に改善していないことも考慮し、職場の受け入れ制度や態勢と組み合わせながら判断しなければなりません。なお、判断基準の例を下記に示しますので参考としてください。
1. 労働者が十分な意欲を示している
2. 通勤時間帯に一人で安全に通勤ができる
3. 決まった勤務日、時間に就労が継続して可能である
4. 業務に必要な作業ができる
5. 作業による疲労が翌日までに十分回復する
6. 適切な睡眠覚醒リズムが整っている、昼間に眠気がない
7. 業務遂行に必要な注意力・集中力が回復している

川上 慎太郎1、砂金 直美2、大林 知華子3、須藤 惇4 (1.ここあすクリニック市ヶ谷、2.仙台第一法律事務所、3.Actwith株式会社/ちかメンタルクリニック、4.弁護士法人ほくと総合法律事務所)