第98回日本産業衛生学会

セッション情報

シンポジウム

シンポジウム 13 産業保健における視機能の再評価

2025年5月16日(金) 09:30 〜 11:00 第7会場 (仙台市博物館 1F ホール)

座長: 立道 昌幸(東海大学医学部基盤診療学系衛生学公衆衛生学), 白根 雅子(日本眼科医会/しらね眼科)

 職域において視機能については、これまで「視力」のみで判断されてきたが、視力以外には色覚、視野も重要な視機能である。色覚については就業上配慮を不要とする場合にも「色覚検査」が実施されてきた経緯があり、先天的な問題もからみ一律的な配置前健診は人権の問題もあり廃止された。もう一つの「視野」については、これまで職域ではほとんど認識が乏しい状況である。視野異常の代表的な疾患である緑内障は視野が高度に障害されていても、周辺視野から視野欠損が進行し、末期まで中心視野は保たれることから「視力」では検出できない。
 緑内障は、2000年に実施された疫学研究(多治見研究)より40歳以上で5%、60歳以上では7%以上の有病率であり、現在の視覚障害者認定において第一の疾患である。緑内障は両眼に出現するが、左右差があることで、両眼視する日常では視野異常を自覚できないことが特徴であることから、緑内障が治療されていない方が80%以上と推測されている。一方で、現在の緑内障の受療者数は患者調査によると約50万人、そして有病率から試算すると500万人が未治療者、しかし視覚障害者が30万人である。つまり、どのような緑内障で視野障害が進行し視覚障害に至るのかについて緑内障の自然史についての知見の集約も必要であり、今後十分な疫学研究が必要と思われる。一方で、現在でも高度な視野欠損を持ちながら仕事をされている労働者も一定数いることは間違いなく、緑内障という病気を身近に感じ、職域でも対策をとる必要がある。
 本シンポジウムでは、特に視野としての視機能と産業保健との関わりを中心に、労働生産性に関する研究について川崎良先生に紹介していただき、次に視野障害をもつ労働者にとって極めて重要な問題である「運転業務」についての知見を丸山耕一先生にご講演いただき、近年の労働災害における「転倒」における視野障害の関与について志摩梓先生にご紹介いただく。そして、眼科健診後の事後措置について村上美紀先生にご教授頂くことで、緑内障に関する知識を深めてみたい。