第98回日本産業衛生学会

セッション情報

メインシンポジウム

メインシンポジウム 3 過去の大災害を知り、次の大災害に備える

2025年5月16日(金) 09:00 〜 11:00 第1会場 (仙台国際センター 展示棟 1F 展示室3)

座長: 立石 清一郎(産業医科大学 産業生態科学研究所 災害産業保健センター), 各務 竹康(福島県立医科大学 医学部 衛生学・予防医学講座)

近年、日本では地震、台風、洪水などの大規模災害が頻発しており、それらは労働者の健康や職場環境に深刻な影響を及ぼしています。特に、災害発生時の迅速な医療対応、職場における産業保健体制の確立、そして復興期における継続的な健康支援の重要性は、今後ますます高まると考えられます。本シンポジウムでは、過去の大災害における対応を振り返りながら、次なる災害に向けた教訓と備えについて議論を深めてまいります。

石井先生は、2011年の東日本大震災において、宮城県石巻医療圏の自治体機能が大きく低下する中、石巻赤十字病院が医療救護活動の統括を担いました。救急・災害医療の最前線で指揮を執り、被災者の救命、避難所の医療体制の確立、巡回診療の実施など、多岐にわたる活動を展開されました。本講演では、当時の対応の詳細と、今後の災害対応に向けた課題についてお話しいただきます。

小早川先生は、災害派遣医療チーム(DMAT)の一員として、東日本大震災において、通常の医療活動に加え、福島第一原発事故に伴う避難住民の放射線スクリーニング、医療機関からの患者搬送、さらには長期的な健康相談など、多面的な活動を展開しました。また、復興支援室を通じた地域の健康支援や、産業保健との連携にも携わってこられました。本講演では、これらの活動の実際と、今後のDMATの役割についてお話しいただきます。

安部先生は、災害時に労働者の健康がさまざまな影響を受けることについて、包括的な視点からお話しいただきます。物理的・心理的な健康リスクが増大する中で、産業保健職が果たすべき役割が問われています。特に中小企業では、産業保健体制が十分でないケースも多く、事前の準備や迅速な対応が求められます。本講演では、過去の災害から得られた知見をもとに、産業保健職が担うべき役割や、具体的な対応策についてご紹介いただきます。

西澤先生は、能登半島地震での経験を踏まえ、鉄道業における産業保健活動についてお話しくださいます。鉄道業は広範囲にわたる事業場を持ち、運転士、駅員、施設管理担当者など、多様な職種の従業員が従事しています。復旧作業や避難誘導に尽力する中で、従業員自身が被災者となるケースも多く、産業保健職としてどのように対応すべきかが問われました。本講演では、その具体的な対応や今後の課題について解説いただきます。

4名の先生方のご講演を通じて、災害対応の現場で求められるものは何か、産業保健の視点からどのような備えが必要かについて、貴重な示唆が得られることと思います。最後のディスカッションでは、講演の内容を踏まえ、参加者の皆様とも意見を交わしながら、より実践的な対応策について議論を深めてまいりたいと考えています。

大規模災害の発生は、すでに目の前に迫っています。過去の災害を学び、次の災害に備え、労働者への健康影響を最小限に抑えるためには、産業保健職の力が不可欠です。本シンポジウムでは、自社での対応にとどまらず、共助・公助の視点からも議論を深めていければと考えております。多くの皆様のご参加を心よりお待ちしております。