第39回一般社団法人日本口腔腫瘍学会総会・学術大会

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教育セミナー1

座長:本田 一文(日本医科大学大学院医学研究科生体機能制御学分野)

[ES1-01] ゲノム医療総論と、食道がん消化管がんにおける、ゲノムベースの治療開発の現状

〇加藤 健1 (1.国立がん研究センター中央病院)

【略歴】
1995年産業医科大学医学部卒業、九州大学医学部第一内科入局
1997年九州大学大学院医学系研究院へ進学 医学博士を取得
2004年国立がんセンター中央病院消化器内科 がん専門修練医
2006年国立がんセンター中央病院 消化管内科 スタッフ
2012年   国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長
2015年国立がん研究センター中央病院 バイオバンク・トランスレーショナルリサーチ支援室 室長(併任)
2020年国立がん研究センター中央病院 頭頚部内科科長 / 消化管内科医長

日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医、指導医、
日本内科学会総合内科専門医、指導医
日本食道学会 理事、食道科認定医
JCOG食道がんグループ事務局
2000年代は、まさに分子標的治療薬開発の時代であった。消化管間葉系腫瘍(GIST)あるいは慢性骨髄性白血病に対するイマチニブに始まり、乳がん、胃がんに対するトラスツズマブ、肺がんに対するゲフィチニブなど、特定の遺伝子変異や、蛋白発現を有するがんに対する治療効果が示され、それまで殺細胞薬が中心であった抗がん剤の開発が、分子標的治療薬の時代となった。最初はひとつの検査で、ひとつの分子標的薬の可否を決めていたが、分子標的治療薬が増えてくることで、いろんな遺伝子変化に対して効果が期待できる選択肢が増えてきたため、一度にたくさん遺伝子変化をみることが求められた。また、がん種ごとの治療法の決定ではなく、遺伝子変化ごとの治療法の決定ができると考えられてくることで、がん種をこえて、より広い範囲の分子変化を見る必要に迫られてきた。結果として、次世代シークエンサーの技術を用いた遺伝子パネル検査を用いて、一回の検査で多数の遺伝子変化を測定し、その遺伝子変化にあった薬剤を投与するゲノム医療が考えられた。実際に2019年より、標準治療がなくなったがん患者に対して、2種類の遺伝子パネル検査が保険適応となり、がんゲノム医療中核拠点病院などを中心に運用されている。

しかしまだ問題点が山積している。国立がん研究センター中央病院では、日本人独自の遺伝子パネルを開発(NCCオンコパネル)した。507例にてNCCオンコパネルを行い、最終的に遺伝子変化にあった治療を受けることができた患者は16.5%で、無増悪生存期間中央値は、前治療と比較して1.7倍と効果的であったと報告されている。遺伝子パネル検査を受けても、遺伝子変化にあう治験にアクセスするまでに2-3か月かかることも少なくなく、標準治療が不応となったがん患者の多くは、その間に体調変化をきたし、治療までたどり着かないケースも多い。また、上部消化管領域では、いわゆる治療対象となる遺伝子変化が少なく、融合遺伝子なども数%未満とまれであるため、コストに見合う結果が得られるのか問題である。
今後は、より早く結果を検出できるリキッドバイオプシーでゲノム医療を行うGOZILA試験や、より早期に遺伝子パネル検査を行うことの有用性を検討する、Upfront NCCオンコパネル試験、より詳細な遺伝子解析を行い標的分子を同定する、がん全ゲノムプロジェクトなどが行われ、上記問題の解決が試みられている。