[I-P-087] 完全型房室中隔欠損症術後遠隔期に右室内巨大血栓を生じたDown症女児の1例
Keywords:Down症, 血栓, 術後遠隔期
【背景】小児における血栓症はまれなものだが、リスク因子として敗血症や悪性疾患、未修復の複雑心奇形や右心バイパス手術などが指摘されている。また、Down症において、脳梗塞や門脈血栓症、脾静脈血栓症などの血栓症を合併しやすいことが報告されている。今回我々は完全型房室中隔欠損症修復術の3年後に右室内に巨大血栓を生じたダウン症患者を経験したので報告する。【症例】4歳2か月のDown症の女児。生後1か月に肺動脈絞扼術、動脈管結紮術を施行され、11か月時に完全型房室中隔欠損症(以下c-AVSD)修復術(two patch repair)を施行された。以降は特に問題なく定期的に通院していた。4歳2か月時(修復術より3年後)の定期受診で、心エコーにて右室中隔壁に付着する12.6mm×9.7mmの高輝度で可動性の有茎性腫瘤を認めたため緊急入院となった。CT, MRIをおこなったが、腫瘍は否定できず、数日の経過で心エコーにて腫瘤の増大が疑われたため腫瘤摘出術を行った。手術所見で腫瘤は非常にもろい血栓様であり、三尖弁前尖の前乳頭筋~腱索に付着しており、中隔側にVSDパッチ縫着の糸が露出した部分にも付着していた。病理所見でフィブリンを含んだ凝血塊であり、右室内血栓と診断した。入院時の凝固機能は正常でFDP、Dダイマーは正常値だった。プロテインS、プロテインC活性やループスアンチコアグラントも正常範囲内であった。術後ワーファリンとアスピリンの内服を開始し、退院とした。現在まで再発はみられていない。【考察】これまで、当院ではDown症のCHD開心術を370例(うちc-AVSDは117例)経験しているが、術後遠隔期に心室内血栓を生じた症例の経験はなかった。血栓の原因として、先天性凝固異常症は特定できておらず、Down症であること、心内残存糸の影響、術後漏斗胸による心内血流変化などが誘因として想定される。