[I-S02-02] UT-Heartを用いた先天性心疾患手術例のマルチスケール・マルチフィジックス心臓シミュレーション
キーワード:スーパーコンピューター, 先天性心疾患, 個別心臓シミュレーション
【背景】心臓シミュレータUT-Heartの開発は東京大学新領域創成科学研究科で計算科学(久田)と医学(杉浦)の学融合により2001年から始まった。UT-Heartは、分子・細胞から出発し、刺激伝導系・興奮収縮連関・冠循環等も実装し、血液流体と心筋や弁組織などの相互作用を含め、最先端の計算科学でスーパーコンピューターを用いて正面から計算した、マルチフィジックス(力学・電気生理・生化学)、マルチスケール(分子~循環系)の心臓シミュレータである。我々はUT-Heartによる患者の個別心臓シミュレーションを用いて、最適医療の個別予測に取り組んでいる。【目的と方法】UT-Heartを用い、先天性心疾患の手術例3例(両大血管右室起始症2例、修正大血管転位症1例)につき術前・術後状態を作成し、実際の術前・術後状態と比較し検討した。具体的には術前の血行動態を十分再現した上で、コンピューター内で術前モデルに対し手術し、術後状態を計算し、実際の術後と比較した。施行されなかった術式も検討した。【結果と考察】血流・血圧・肺体血流量・心筋や弁の運動・血液酸素飽和度・血液のミキシングを計算し可視化した。各部位の血液酸素飽和度や血圧は実測値とよい一致を示した。術式の比較では、術後の心係数や心室圧のみならず心臓のATP消費量など直接的なエネルギー指標も計算でき、術後状態の定量的・定性的な比較を実現した。複雑な先天性心疾患の術式決定に際しては、限られた報告に加え、通説や術者の経験に依存することが多い。個別心臓シミュレーションにより、治療方針検討のための指標を提供でき、患者の予後改善のみならず、経験の少ない医師への教育効果をもたらすことが期待される。【結論】UT-Heartを用いて先天性心疾患の個別心臓シミュレーションと術後の予測を行った。UT-Heartは治療方針決定や医師の専門教育に活用できると思われる。