[I-S02-03] In SilicoヒトiPS細胞由来心筋細胞の構築と不整脈研究への応用可能性
キーワード:in silico, iPS細胞, 遺伝性不整脈
【背景】ヒトiPS細胞由来心筋細胞(hiPSC-CM)とそれによって構成された心筋細胞シートは,遺伝性不整脈の機序の解明や,抗不整脈薬の効果判定や安全性評価に活用できることから,倫理面ならびに安全性重視の観点からも,小児循環器分野への応用が期待されている.しかし,体細胞由来のhiPSC-CMがオリジナルの心筋細胞と同じとは限らない.実際,hiPSC-CMには胎生期のような興奮自動能があり,通常より活動電位持続時間が長く,活動電位波高が低く,静止膜電位の浅いことが指摘されている.本研究ではコンピュータシミュレーション(in silico)でhiPSC-CMシートにおける不整脈動態と薬効を調べることで,hiPSC-CMシートの応用可能性を検討した.【方法】まず,ヒト心室細胞(hCM)の数学モデルをもとに,hiPSC-CMの特徴を備えた数学モデルを作製した.次に,hiPSC-CMの心筋細胞シートを構築し,興奮伝播速度やスパイラルリエントリーの動態ならびにIKr遮断の影響をhCMシートと比較した.【結果】(1)In silico hiPSC-CMは上述の実験的観察における4つの特徴を備えていた.(2)In silico hiPSC-CMシートでの興奮伝播速度は約5 cm/sと遅く,hCMシートでの興奮伝播速度の約1/10であった.(3)両シートのスパイラルリエントリー動態は大きく異なり,hCMシートの興奮頻度は約5Hzと実心臓に近かったのに対して,hiPSC-CMシートの興奮頻度は約0.9Hzと極めて低かった.(4)これらのin silico結果は,過去のhiPSC-CMシートでの実験結果に矛盾しない.(5)IKr遮断によりスパイラルリエントリーの旋回周期は,hCMシートで延長したが,hiPSC-CMシートでは短縮した.【結論】hCMとhiPSC-CMのin silico心筋細胞シートにおけるスパイラルリエントリーの動態と薬効は異なっていた.hiPSC-CMシートを臨床応用するには何らかの組織学的な改変が必要と考えられるが,in silicoがその溝を埋められる可能性がある.